日奈久温泉

日奈久温泉

日奈久温泉は、熊本県八代市（旧国肥後国）に位置する歴史ある温泉地です。詩人・種田山頭火が愛した温泉としても知られ、その風情ある町並みは多くの人々を魅了してきました。かつて藩営の温泉として栄えたため、今もなお風格ある雰囲気を残しています。

泉質

泉質は、肌に優しい弱アルカリ単純泉です。

温泉街の魅力

天草諸島を望む不知火海（八代海）の海岸沿いに広がる温泉街には、木造三階建ての旅館が点在し、往時の面影を色濃く残しています。細い路地を歩けば、どこか懐かしい雰囲気に包まれるでしょう。夏には不知火、冬には晩白柚を浮かべた晩白柚風呂が楽しめます。

また、海の幸も豊富で、特にタチウオ、ハモ、ワタリガニは日奈久温泉の名物として知られています。温泉街を見下ろす高台には温泉神社があり、周辺では良質な竹が産出されるため、竹細工も盛んです。籠やびく、箕などの竹製品は、温泉土産として人気を集めています。

合計16の泉源が集中しており、湧出量は毎時140トンに達します。ほとんどの旅館が源泉かけ流しで温泉を提供しています。温泉協同組合が共同管理しており、一部の温泉を除いて、その恩恵を受けています。日奈久温泉の名産品としては、高田焼や竹細工に加えて、日奈久ちくわも有名です。

歴史

日奈久温泉の歴史は古く、1409年（応永16年）に遡ります。刀傷を負った父の平癒を祈願した浜田六郎左衛門が、市杵島姫命のお告げにより干潟から湯を掘り当てたという伝説が残っています。六郎左衛門が掘ったとされる湯元には、記念碑が建てられています。

戦国時代には、龍造寺氏や上井覚兼といった武将たちも湯治に訪れました。江戸時代には熊本藩細川氏の藩営温泉となり、藩主・細川綱利の命によって大浴場が設けられ、身分に応じて入浴が許可されました。八代城主・松井氏や参勤交代途上の島津氏もよく利用したと伝えられています。

明治時代に入ると、宿が増え、多くの人々が日奈久温泉を訪れるようになりました。薩摩街道筋を中心に、明治・大正・昭和の時代の区割りや建物、路地が今も残っています。

明治末期から昭和初期にかけて建てられた木造三階建て、二階建ての旅館群は、九州内でも最も多く密集しており、建築的価値の高い建物が数多く残っています。細部に至る数奇屋細工や和小屋・洋小屋掛け、浴場の変遷などを見ることができ、建築ファンにもおすすめです。国の登録有形文化財に登録されている金波楼をはじめ、泉屋、柳屋旅館、新湯旅館などが代表的で、いずれも現在でも宿泊可能です。

開湯600年にあたる2009年には、日奈久温泉センター「ばんぺい湯」がリニューアルオープンしました。熊本藩の奥座敷で藩営の湯となり、明治時代には観光施設であった「本湯」をイメージした和風の新施設として生まれ変わりました。

かつての乗合馬車

かつては国鉄日奈久駅（現在の肥薩おれんじ鉄道日奈久温泉駅）から温泉街まで、乗合馬車が運行していました。日奈久駅開業と同時に運行を開始し、毎日駅前から国道3号を経由して温泉街を走る馬車の姿は、日奈久温泉の名物として親しまれてきました。しかし、交通量の増加や道路事情などから1984年に惜しまれつつ廃止されました。現在も新湯旅館などに「国鉄鹿児島本線日奈久駅から乗合馬車で5分」の案内が掲出され、当時の面影を偲ぶことができます。

アクセス

肥薩おれんじ鉄道線日奈久温泉駅下車徒歩12分
JR九州鹿児島本線八代駅から九州産交バス日奈久下西町ゆき、道の駅たのうらゆきなどに乗車し、日奈久温泉前で下車すぐ
南九州自動車道日奈久インターチェンジより1.1㎞

関連情報

日奈久温泉旅館組合
* 日奈久温泉　路地裏ツーリズム

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