日本の交響作品展

日本の交響作品展

「日本の交響作品展」は、作曲家・芥川也寸志とアマチュアオーケストラの新交響楽団が、1976年から1986年まで継続的に開催したコンサートシリーズです。この企画は、日本のオーケストラ音楽の黎明期に生まれた、戦前の日本人作曲家による交響作品（管弦楽作品）に光を当て、その魅力を再発見することを目的としていました。

企画の背景

明治以降、日本人の手による交響作品は、山田耕筰の『勝鬨と平和』(1912年) を嚆矢として、多くの作曲家によって創作されてきました。特に1930年代から1940年代にかけては、皇紀2600年記念事業や、新交響楽団（後のNHK交響楽団）による自国作品の積極的な演奏会開催など、様々な要因が重なり、多くの作品が生み出されました。しかし、戦後の日本では、プロオーケストラが海外の作品を演奏することが主流となり、日本人作曲家、特に戦前の作品が演奏される機会は極めて少なくなっていました。

このような状況の中、芥川也寸志は、中学時代から日本の音楽に深い関心を抱いており、東京音楽学校在学中には、同時代に作曲された多くの管弦楽作品に触れていました。音楽評論家の小宮多美江は、芥川が古書店で日本の交響作品の楽譜を買い集めていたことを指摘しており、これらの楽譜が「日本の交響作品展」の基礎資料になったと述べています。

コンサートの内容

1976年、新交響楽団は創立20周年を記念して、2夜にわたる「日本の交響作品展」を開催しました。このコンサートでは、平尾貴四男、箕作秋吉、尾高尚忠、早坂文雄、伊福部昭といった、戦前を代表する作曲家たちの作品が演奏されました。この企画は大きな反響を呼び、芥川と新交響楽団は第8回鳥井音楽賞（現サントリー音楽賞）を受賞しました。受賞記念コンサートでは、清瀬保二、箕作秋吉、尾高尚忠、早坂文雄、伊福部昭の作品が演奏されました。

その後も、芥川と新交響楽団は、毎年「日本の交響作品展」を開催し、小倉朗、菅原明朗、清瀬保二、松平頼則、戸田邦雄、渡辺浦人、別宮貞雄、小山清茂など、多くの作曲家の作品を紹介しました。1986年の最終回では、芥川自身の作品が特集され、彼の作曲家としての側面にも焦点が当てられました。

企画の意義と評価

「日本の交響作品展」は、戦前の日本のオーケストラ音楽の実態に触れる貴重な機会として、多くの音楽ファンや研究者から高い評価を受けました。音楽評論家の木村重雄は、「芥川の的確な指導により、新交響楽団がこれらの作品に全精力を注ぎ込んだ」と述べ、その演奏を高く評価しました。また、富樫康、秋山邦晴、小宮多美江、小村公次などの音楽評論家は、「日本の近代音楽史に光をあてる画期的なコンサート」であったと評しています。

芥川の師である伊福部昭も、「作品を書くばかりでなく、日本はもっと日本の作品を重視す可きであると云うのが彼の主張」と述べ、この企画が新交響楽団の結成や育成につながったと指摘しています。

小宮多美江は、芥川没後の著書の中で、「日本の交響作品展」が、アマチュアオーケストラである新交響楽団の可能性を広げたと指摘しています。また、芥川が松平頼則の個展をサントリーの作曲家個展に譲ったエピソードに触れ、「アマチュアの気迫を殺ぐまいとの配慮」があったと推測しています。

後継の演奏会

芥川の没後も、新交響楽団は、日本人の交響作品を演奏する活動を継続しました。石井眞木、秋山邦晴、片山杜秀、日本近代音楽館などの協力を得て、細川俊夫、松村禎三、石井眞木、夏田昌和、一柳慧など、同時代作曲家の作品を積極的に取り上げました。

新交響楽団の「日本の交響作品を積極的に、継続的に演奏する」という理念は、2002年に設立されたオーケストラ・ニッポニカに引き継がれています。

関連CD

「日本の交響作品展」の演奏は、1987年からフォンテックによってCD化されました。これらのCDは、レコード・アカデミー賞を受賞するなど、高い評価を得ています。また、多くのCDが2011年に再発売され、現在でも入手可能です。

内容一覧

「日本の交響作品展」で演奏された作品の一部は以下の通りです。

1976年「日本の交響作品展 昭和8年〜18年」：平尾貴四男『古代讃歌』、箕作秋吉『小交響曲ニ長調』、尾高尚忠『日本組曲』、早坂文雄『古代の舞曲』、伊福部昭『交響譚詩』など
1978年「小倉朗交響作品展」：小倉朗『交響組曲イ短調』、『ヴァイオリン協奏曲』など
1979年「日本の交響作品展3 早坂文雄」：早坂文雄『映画音楽「羅生門」から』、『管弦楽のための変容』など
1980年「日本の交響作品展4 伊福部昭」：伊福部昭『オーケストラとマリムバのためのラウダ・コンチェルタータ』、『タプカーラ交響曲』など
* 1986年「日本の交響作品展10 芥川也寸志」：芥川也寸志『交響曲第一番』、『エローラ交響曲』など

まとめ

「日本の交響作品展」は、埋もれていた戦前の日本人作曲家の作品を発掘し、再評価する上で大きな役割を果たしました。この企画を通して、多くの人々が日本のオーケストラ音楽の魅力を再認識し、日本の音楽史に新たな光が当てられました。また、芥川也寸志の情熱と新交響楽団の努力によって、アマチュアオーケストラがプロオーケストラと肩を並べるほどの演奏力を持ち得ることを証明した、画期的な企画でした。

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