日本特別掃海隊

日本特別掃海隊：朝鮮戦争における知られざる活動

日本特別掃海隊は、朝鮮戦争中に国連軍の要請に基づき、連合国軍占領下の日本の海上保安庁が派遣した掃海部隊です。この部隊は、戦後の日本近海における機雷除去作業から、朝鮮半島沿岸での掃海作戦まで、多岐にわたる活動を行いました。

前史：戦後の機雷除去

1945年8月15日の日本の降伏後、日本近海には旧日本海軍が敷設した約55,000個の係維機雷と、アメリカ海軍が敷設した約6,500個の感応機雷が残存していました。これらの機雷は日本の海上交通を麻痺させ、食料輸入を困難にしていました。この状況を打開するため、終戦直後から掃海作業が開始されました。

当初は海軍が担当していましたが、海軍省の廃止に伴い、第二復員省、復員庁を経て運輸省へと所管が移管されました。1948年5月には、運輸省の外局として海上保安庁が新設され、掃海業務を所管することになりました。1950年6月には、航路啓開本部が独立改編され、掃海作業はさらに強化されることになりました。

朝鮮戦争勃発と機雷戦

1950年6月に朝鮮戦争が勃発すると、占領下にあった日本もその影響を受け、海上保安庁は国連軍の要請により動員されることになりました。7月には、佐世保港と横須賀港で機雷敷設に対する警戒措置として、日施確認掃海が開始されました。

一方、北朝鮮軍はソ連製の機雷を大量に入手し、元山と鎮南浦に敷設を開始しました。国連軍は当初、北朝鮮の機雷戦能力を軽視していましたが、9月に入ると米軍の駆逐艦が機雷を発見したことを皮切りに、機雷による被害が相次ぎました。これにより、国連軍は機雷の脅威を認識し、掃海作戦の必要性が高まりました。

特別掃海隊の編成

国連軍は、仁川上陸作戦に続き元山への上陸作戦を計画していましたが、対機雷戦部隊の不足により作戦は遅延していました。そのため、アメリカ極東海軍は、海上保安庁に掃海隊の派遣を要請しました。吉田茂首相は当初、戦闘行為への関与に消極的でしたが、占領下という状況から米軍の要請を受け入れざるを得ませんでした。

10月2日、田村航路啓開本部長を総指揮官とする特別掃海隊が編成され、掃海艇と巡視船が下関に集結することになりました。この派遣は極秘裏に進められ、隊員には具体的な任務内容や危険性が十分に伝えられないまま、作戦が開始されました。

特別掃海隊の組織

特別掃海隊は、日本側では特別掃海隊、アメリカ海軍ではCTE95.66と呼ばれていました。隊員は元海軍出身者が多く、以下の部隊で構成されていました。

総指揮官: 田村久三
第1次掃海隊: 山上亀三雄指揮
第2掃海隊: 能勢省吾指揮
第3掃海隊: 石飛矼指揮
第4掃海隊: 萩原旻四指揮
第2次第1掃海隊: 花田賢司指揮
第2次第2掃海隊: 石野自彊指揮
第5掃海隊: 大賀良平指揮

出動準備と隊員の葛藤

非軍事化された海上保安庁が、外国での戦闘行為に従事することに対し、隊員の間では議論が起こりました。当初は「朝鮮海峡での浮流機雷の掃海」と説明されていたため、隊員たちは38度線を越えないという約束を信じていました。しかし実際には、危険な掃海作戦に投入されることになり、多くの隊員が不安を抱えながらも任務に就きました。また、派遣に反対する家族も多く、下関の岸壁では隊員の家族が派遣を思いとどまるように懇願する場面も見られました。この特殊な状況から、特別掃海隊に参加する隊員には特殊勤務手当が増額されました。

作戦行動

特別掃海隊は、以下の地域で掃海作業を行いました。

第1掃海隊（山上隊）: 海州沖の掃海を担当。イギリス海軍と協力して機雷を処分しました。
第2掃海隊（能勢隊）: 元山沖で掃海作業に従事。上陸作戦に先立ち、泊地を確保しようとしましたが、米掃海艇の触雷沈没により、作戦は一時中断しました。その後、掃海を強行しようとする米軍の指示に反発し、帰国を決意しました。
第3掃海隊（石飛隊）: 元山沖での掃海任務を遂行。磁気機雷への対応を行い、掃海具を用いた掃海作業を行いました。
第4掃海隊（萩原隊）: 群山沖の掃海を担当。韓国海軍の指揮下で掃海を行い、航路の安全確保に尽力しました。途中、MS30が座礁沈没する事故も発生しました。
第2次第1掃海隊（花田隊）: 元山沖での掃海任務を担当。安全海面の掃海が割り当てられ、米軍との折衝もスムーズに進みました。
第2次第2掃海隊（石野隊）: 鎮南浦沖の掃海を担当。米軍の水中処分隊と協力して掃海を行いました。その後、第5掃海隊を編入して、朝鮮水域における最大の掃海部隊となりました。
* 第5掃海隊（大賀隊）: 鎮南浦に到着後、石野隊に編入されました。その後、再び第2次第4掃海隊として再編され、海州での掃海を行いました。

掃海作業の終了と評価

12月15日、アメリカ極東海軍は掃海作業の終了を指示し、特別掃海隊は解散しました。特別掃海隊は、2ヶ月以上にわたり、300キロの水路と600平方キロの泊地を啓開しました。処分した機雷の数は29個に過ぎませんでしたが、その貢献は大きく評価され、国連軍からは作戦の成功に大きく貢献したと賞賛されました。

掃海活動のその後

特別掃海隊の派遣は、日本国憲法第9条に抵触する可能性があったため、秘密扱いとされました。唯一の殉職者である中谷烹炊長の遺族には、アメリカから多額の慰労金が支払われましたが、その詳細も公表されませんでした。1979年には、中谷烹炊長に戦没者叙勲が贈られましたが、その功績も一般には知られていませんでした。帰国後、能勢隊長は職を追われたものの、後に海上保安官として復帰し、海上自衛隊でも活躍しました。大賀隊長も海上自衛隊に進み、海上幕僚長にまで昇りつめました。

朝鮮半島の反応

北朝鮮は「国連軍に日本兵が参戦している」と非難し、ソ連も同様に批判しました。韓国の李承晩大統領は「日本軍が出兵したら、共産軍と戦う銃を日本軍に向ける」と演説しました。一方、日本側は、朝鮮半島での対日感情を考慮して、掃海隊員の不用意な上陸を避けるよう指示していました。

まとめ

日本特別掃海隊は、朝鮮戦争における日本の知られざる貢献者でした。彼らの活動は、戦後日本の複雑な立場と、平和維持への貢献を示す貴重な事例と言えるでしょう。危険な任務に携わった隊員たちの献身は、後世に語り継がれるべきです。

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