昆虫大戦争

映画『昆虫大戦争』の詳細解説

『昆虫大戦争』は、1968年11月9日に松竹が製作・公開したSF特撮映画です。カラー作品で、上映時間は84分、シネスコサイズで制作されました。

あらすじ

物語は、核爆発のキノコ雲と「人類は、この瞬間に核エネルギーを手に入れた。その時から核の恐怖が始まった」というテロップから始まります。ベトナムへ向かう途中だった米軍の水爆搭載機が、毒虫の大群に襲われて亜南群島近海に墜落。亜南群島は、日本の敗戦後、米軍の占領下でしたが、20数年ぶりに日本へ返還されたばかりでした。

米軍はゴードン中佐を隊長として、墜落した水爆の捜索作戦「折れた矢作戦」を開始します。しかし、この島では異変が発生していました。それは、かつてナチスによって虐待を受け人間不信に陥ったユダヤ人女性の生物学者アナベルが、生物兵器として開発した毒虫の群れでした。アナベルは、人間を狂わせる猛毒と知能を与えられた昆虫たちを使って、「核兵器をもてあそぶ人類は破滅する。しかし、その巻き添えで破滅するのはごめんだ！」と人類に復讐を始めたのです。

概要

松竹大船撮影所が制作した本作は、『吸血鬼ゴケミドロ』に続く、終末テーマのSFパニック映画シリーズとして位置づけられます。当時のベトナム戦争の泥沼化や、東西陣営の核戦争への脅威を背景に、孤島を舞台として愛憎劇、スパイ戦、大国のエゴなど、濃厚な人間ドラマが描かれています。物語の軸となるのは「水爆搭載機の墜落と捜索」ですが、これは、公開の2年前に発生したパロマレス米軍機墜落事故を想起させる、当時としては現実味のあるテーマでした。

スタッフ陣には、前年の『宇宙大怪獣ギララ』の二本松嘉瑞監督、平瀬静雄撮影、川上景司（特撮）が参加し、音楽と脚本は『吸血鬼ゴケミドロ』の菊池俊輔と高久進が担当しました。川津祐介は、二本松嘉瑞監督を慕っており、出演依頼を快諾したそうです。撮影は八丈島で行われ、川津祐介が本物のミツバチに噛まれるシーンも存在します。チャーリー役のチコ・ローランドはブラジル出身で、現地に生息する猛毒の蜂に似た蜂の撮影を非常に恐れたといいます。

毒虫の撮影では人間大の着ぐるみも用意されましたが、製作に1か月ほどかかるため、スケジュールが合わず本編での使用は見送られ、予告編のみに登場しています。予告編には、『吸血鬼ゴケミドロ』の宇宙円盤が地球に接近する映像が流用されていますが、本編にはこのような描写はありません。

本作は、「社団法人・映画輸出振興協会」による輸出映画産業振興金融措置の融資を受けて製作されています。

スタッフ

製作：小角恒雄
原案：天田欽元
監督：二本松嘉瑞
脚本：高久進
音楽：菊池俊輔
撮影：平瀬静雄
美術：芳野尹孝
録音：中村寛
照明：青木辰夫
現像：東洋現像所
協力（特撮監督）：川上景司、菅沼峻（日本特撮株式会社）

キャスト

南雲：園井啓介
秋山譲治：川津祐介
秋山ゆかり：新藤恵美
アナベル：キャシー・ホーラン（声：北浜晴子）
チャーリー：チコ・ローランド（声：たてかべ和也）
小室：瞳麗子
ゴードン中佐：ロルフ・ジェッサー（声：納谷悟朗）
軍医：フランツ・グルーベル
水爆機機長：マイク・ダーニン
米軍司令官：ハロルド・コンウェイ
松永：上田忠好
刑事：青沼三郎
藤井：青山宏
工藤：市村俊幸
南雲の助手：園江梨子
副官：ウォルフラム・ベギシャス
副操縦士：ゲルマン・ライナー
通信兵：ウィリアム・ドュウク
搭乗員：ハッピー・バーマン
声の出演：テアトルエコー

国内興行

併映作品は『吸血髑髏船』と『黒蜥蜴』（深作欣二監督作品）でした。

映像ソフト

2003年4月25日に松竹からニューテレシネ・デジタルリマスター修復版DVDが発売されました。同日には『吸血鬼ゴケミドロ』『宇宙大怪獣ギララ』『吸血髑髏船』とセットになったDVD-BOX『S-F CUBE』も発売されました。映像特典として川津祐介のインタビュー、音声特典には樋口真嗣とみうらじゅんによるカウチコメンタリーが収録されています。『S-F CUBE』にはヴィネットタイプのフィギュアも付属しました。

備考

テレビドラマ『キイハンター』の第135話「吸血昆虫島 上空異常あり」では、導入部とエンディング以外は本作の脚本がそのまま使われています。脚本家は両作品ともに高久進、音楽は菊地俊輔が担当しました。ドラマでは、昆虫島で毒虫を飼育し人類抹殺を企むキャシー・ホラン役を真理アンヌが演じており、胸元を開いてナチスの虐殺の刻印を見せつける場面や、登場人物の台詞も本作とほぼ同じ内容となっています。

脚注

『昆虫大戦争DVD』（松竹ビデオ）

外部リンク

* 昆虫大戦争 - allcinema

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