明応の政変

明応の政変：室町幕府を揺るがした将軍廃立事件

明応の政変は、室町時代の明応2年（1493年）4月に、管領の細川政元が、日野富子や伊勢貞宗らと共謀して起こした将軍の廃立事件です。この政変により、将軍は足利義材（後の義稙）から足利義澄へと交代し、以後の将軍家は義稙流と義澄流の二つに分裂しました。この事件は、戦国時代の始まりとする説もあり、日本史における重要な転換点と位置づけられています。

政変に至るまでの経緯

足利義材の将軍就任

足利義材は、応仁の乱で西軍の盟主に擁立された足利義視の嫡子です。応仁の乱後、義材は父と共に美濃へ逃れていましたが、9代将軍足利義尚の急死を受けて、将軍候補として浮上します。当初、前将軍の足利義政や管領の細川政元は、義視の子が将軍になることに難色を示しましたが、日野富子の後押しにより、義材が10代将軍に就任しました。

しかし、この決定に反対した政元や伊勢貞宗は、義視父子と対立を深めます。特に貞宗は、前将軍義尚の側近として仕えていたため、義材の将軍就任に危機感を抱いていました。また、政元の父である細川勝元は、応仁の乱で義視と敵対していたため、同じように危機感を共有していたと考えられます。

義視の死と義材の専横

義材の将軍就任後、義視が急死すると、義材は自身の政治的立場を固めるために、有力な大名を討伐し権威を高める策に出ます。まず、近江の六角行高を討伐し、続いて河内の畠山基家討伐を計画しました。しかし、これらの軍事行動は、政元の意向を無視したものであったため、政元の不満を高めることになります。

特に、河内討伐は、政元にとって好ましくないものでした。畠山氏は細川氏と同じく管領に就任できる有力大名であり、その勢力拡大は細川氏の脅威となるためです。政元は、畠山氏の勢力を削ぐために、政長と基家の対立を利用していましたが、義材の行動により、畠山氏が再統一されようとしていました。

政変の勃発

細川政元の挙兵

明応2年4月、ついに政元は挙兵を決意します。政元は、義材を廃して足利義澄を擁立し、さらに畠山政長を河内守護から解任することを宣言しました。この動きは、義材とその側近たちに大きな動揺を与えました。政元の動きに呼応するように、伊勢貞宗が義材に同行する大名や奉公衆に新将軍に従うように促したため、大名や将軍直臣の多くが義材から離反し、京都へ帰還します。

一方、義材は、畠山政長の軍勢8千と共に、徹底抗戦の構えを見せましたが、政元の勢力の前に孤立してしまいます。この時、赤松政則や大内義興といった有力大名も政元側に付き、義材の敗北は決定的となります。

朝廷の対応

朝廷は、将軍の廃立という事態に激しく動揺しましたが、政元の献金を受け入れることで、義澄の将軍就任を承認します。この背景には、朝廷が政変を起こした政元に費用を頼らざるを得ないという財政状況がありました。朝廷は、政変に対する判断を先送りし、政元の意向に沿う形で事態を収拾します。

義材の敗北と政長の死

政元は、畠山政長討伐のため、軍勢を河内へ派遣し、義材と政長は正覚寺に籠城しますが、政元の軍勢に包囲されます。その後、政長を頼った紀伊の軍勢が、赤松政則によって足止めされたことで、義材と政長は絶望的な状況に追い込まれます。ついに正覚寺は陥落し、政長は自害、義材は降伏し、京都へ送還されました。

政変の原因と考察

政元と義材の対立

政元が義材に反旗を翻した最大の理由は、義材が政元の意向を無視して軍事行動を繰り返したことにあります。義材は、政元への依存を減らすために、他の大名との関係を強化しようとし、それが政元の危機感を煽りました。また、義材は政元の対抗馬として、細川義春を重用したため、政元の不信感を高めました。

諸大名の思惑

大名たちは、義材の度重なる出兵要請に負担を感じ、厭戦気分が広まっていました。そのため、政元が政変を起こすと、多くの大名が義材を見捨て、政元側につきました。また、日野富子も義材の権力暴走を危惧しており、政変を支持しました。将軍直臣も富子や伊勢貞宗の影響を受けて、義材を見限ったと考えられます。

政変の本質

明応の政変は、単なる将軍の廃立事件ではなく、室町幕府の権力構造を大きく変える出来事でした。この政変以降、幕府の権力は将軍から管領の細川氏へと移行し、将軍は傀儡化することになります。また、大名の力が強まり、下克上の風潮が強まります。

政変の影響とその後

幕府の分裂

明応の政変後、足利将軍家は義稙流と義澄流の二つに分裂し、各地で対立が続きます。義材は越中へ逃れ、幕府は二つの将軍家を抱えることになります。また、畠山氏は政長の死によって没落し、分裂したままとなります。

戦国時代の幕開け

この政変は、室町幕府の権威を失墜させ、戦国時代の幕開けを告げる出来事となりました。大名たちは、将軍ではなく、自らの力で勢力拡大を目指すようになり、戦国時代の動乱が本格化していきます。従来の応仁の乱を戦国時代の始まりとする説に対して、近年では明応の政変こそ戦国時代の始まりとする説が有力になりつつあります。

その後の展開

政変後、政元は幕政を掌握しますが、傀儡化した将軍の権力は細川氏の権力によって支えられることになります。しかし、政元もまた内憂外患に苦しめられ、やがて暗殺されることになります。また、将軍家は分裂を続け、織田信長が足利義昭を擁して上洛するまで、戦乱が続くことになります。

明応の政変は、室町幕府の衰退を決定づけ、戦国時代への移行を促した重要な出来事です。

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