明智五宿老

明智五宿老（あけちごしゅくろう）

明智五宿老とは、戦国時代から安土桃山時代にかけて、明智光秀に仕えた中でも特に重要な役割を担った五人の重臣たちを指します。彼らは光秀が織田信長に対する謀反、すなわち本能寺の変を決意した際に、その重大な計画を最初に打ち明けられた側近中の側近であり、クーデターの遂行において中心的な役割を果たしました。しかし、変後の混乱と、羽柴秀吉との間に勃発した山崎の戦いによって、光秀と運命を共にし、全員が非業の最期を遂げました。

五宿老として数えられるのは以下の五名です。

明智秀満（あけち ひでみつ）：通称は左馬助。光秀の従弟であったとする説が有力です。
明智光忠（あけち みつただ）：通称は次右衛門。彼もまた光秀の従弟とされることがあります。
斎藤利三（さいとう としみつ）：通称は内蔵助。娘に春日局がいます。
藤田行政（ふじた ゆきまさ）：通称は伝五。
溝尾茂朝（みぞお しげとも）：通称は庄兵衛。

本能寺の変における役割

天正10年（1582年）6月1日、光秀は毛利攻めの援軍として丹波亀山城を出陣します。道中の篠村八幡宮に立ち寄った際、光秀は五宿老を呼び集め、織田信長を討つという決意を彼らに打ち明けたと伝えられています。これに対し、五人は覚悟を決め、光秀の計画に同意したとされます。翌6月2日未明、明智軍は信長が滞在していた本能寺を急襲しました。この時の陣立ては以下のようになっています。

第一陣大将：明智秀満
第二陣大将：明智光忠（藤田行政、溝尾茂朝を配下に置く）
第三陣大将（総大将）：明智光秀（斎藤利三を配下に置く）

激しい戦闘の結果、織田信長は自害したか、炎上する本能寺の中で命を落としたと見られますが、その遺体は発見されませんでした。また、二条新御所へ移った織田信忠も明智軍の攻撃を受けて自害に追い込まれました。この戦いの最中、明智光忠は鉄砲による負傷を負い、斎藤利三は信忠軍に属していた義弟（妻の兄弟）である斎藤利治を討ち取るという悲劇も経験しました。

変後の活動と山崎の戦い、そして終焉

本能寺の変の後、五宿老は新たな明智政権下でそれぞれの役割を担いました。明智秀満は安土城の守備を任され、負傷した明智光忠は京都の知恩院で療養することになります。藤田行政は、大和郡山城主である筒井順慶を明智方に引き入れるため郡山へ向かいますが、交渉は不調に終わりました。

しかし、明智政権は長くは続きませんでした。備中高松城から「中国大返し」によって驚異的な速度で引き返してきた羽柴秀吉の大軍が、光秀の本拠地へと迫ってきたのです。天正10年6月13日、光秀は斎藤利三、藤田行政、溝尾茂朝らを伴い、天王山の麓である山崎で秀吉軍と対峙しました。これが世に言う山崎の戦いです。

地の利を得た秀吉軍の猛攻の前に、明智軍は敗退します。光秀は溝尾茂朝と共に勝龍寺城へ一時退却しますが、秀吉軍の追撃が迫ったため城を放棄し、本拠地である坂本城への落ち延びを図りました。しかし、道中、光秀は落ち武者狩りをしていた百姓によって致命傷を負わされ、ついに自害。溝尾茂朝が介錯を務めたと伝えられています。茂朝は光秀の首を隠すと、坂本城へと向かいました。

山崎での敗報は安土城の秀満と、知恩院で療養中の光忠にも伝えられます。翌6月14日、明智秀満と明智光忠は坂本城へと戻りました。城が秀吉軍に包囲される中、秀満は光秀が集めた財宝が散逸するのを惜しみ、目録を作成して包囲軍の将であった堀直政に渡したとされています。その後、秀満は光秀の妻子と自らの妻子を刺殺し、城に火を放つと、明智光忠、溝尾茂朝と共に壮絶な自刃を遂げました。

一方、山崎の戦いで負傷しながらも淀まで敗走していた藤田行政は、勝龍寺城が陥落したことを知り、その場で自刃しました。斎藤利三は戦場から逃れようとしましたが、近江国の堅田で捕らえられ、6月17日に京都の六条河原で斬首されました。

このように、明智五宿老は光秀による天下盗りの夢を最も間近で支えた忠臣たちでしたが、その夢が僅か十数日で潰えたのと共に、全員が悲劇的な死を遂げることとなりました。彼らの最期は、光秀の短命な政権の終わりを象徴するものと言えるでしょう。

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