春日集落

春日集落：隠れキリシタンの歴史と棚田が織りなす文化的景観

春日集落は、長崎県平戸市の北西部に位置し、平戸島の自然豊かな場所にあります。かつて隠れキリシタンによって開かれたこの集落は、美しい棚田の景観で知られ、その文化的価値は高く評価されています。2018年には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の一つとして、世界遺産に登録されました。

キリスト教伝来から禁教、そして潜伏へ

16世紀、フランシスコ・ザビエルの来航をきっかけに、平戸にキリスト教が広まりました。春日集落は、キリシタン大名である籠手田氏の所領であったため、1558年より宣教師による布教が活発に行われました。1561年には教会堂も建立されるほどでしたが、1587年のバテレン追放令により、状況は一変します。神父が不在となった後も、春日の人々はコンフラリアという組織を作り、密かに信仰を続けました。

江戸時代に入り、禁教令が発布されると、春日集落のキリシタンたちは仏教や神道、土着の民間信仰を装いながら信仰を守り続けました。納戸神やマリア観音を祀り、ロザリオを隠すなど、偽装棄教をしながら、オラショを唱え続けました。この過程で、自然崇拝の要素も取り入れられ、本来のキリスト教の教義とは異なる独自の信仰形態が形成されました。

禁教解禁後も続く独自の信仰

1873年に禁教令が解かれた後も、春日集落の人々はカトリックに復帰することなく、独自の信仰を守り続けています。そのため、集落には教会堂が設立されていません。明治以降は、コンフラリアを継承したキリシタン講が活動を行っていましたが、2007年頃に活動は休止したとされています。

春日集落の地理的特徴と棚田

春日集落は、安満岳から伸びる二つの尾根に挟まれた谷状の地形に位置しています。集落の耕作地は約1100ヘクタールで、その多くは棚田です。この棚田は、江戸時代に平戸藩が年貢徴収のために整備を奨励したことで形成されました。安満岳から湧き出る清水を利用し、安山岩を積み上げて造られた棚田は、海抜0メートルから標高150メートル付近まで広がっており、その景観は非常に美しいものです。棚田の配置や道、宅地の位置は、江戸時代からほとんど変わっておらず、集落の歴史と文化を今に伝えています。

集落は、かつては外界から隔絶された場所にあり、潜伏キリシタンが密かに暮らすのに適していました。現在では県道が通過していますが、その道も棚田の形状に合わせて作られているため、景観は損なわれていません。

棚田米と人々の暮らし

春日集落では、古くから畑作と漁労が営まれていましたが、棚田の整備により稲作が中心となりました。春日の稲作は早場米であり、9月中旬には収穫を終えます。2011年からは「春日の棚田米」として販売も開始され、2017年にはローマ法王に献上されました。しかし、近年は獣害が多発しており、棚田は柵で囲われています。

また、かつては生月島の舘浦から下肥を肥料として利用していました。海岸にはコンクリート製の貯蔵槽が設けられていましたが、現在は法規制により使われなくなっています。

春日集落は、その独特な歴史と美しい棚田景観が織りなす文化的価値の高い場所です。禁教の時代を生き抜いた人々の信仰と、自然と共生する暮らしが、今もなお息づいています。

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