春秋繁露

『春秋繁露』についての詳細

『春秋繁露』（しゅんじゅうはんろ）は、前漢時代の著者董仲舒によって書かれたとされる重要な書物です。この書は、『春秋公羊伝』の解釈に基づきながら、君主の権力強化や革命についての理論、さらには自然現象と人間社会を結びつける陰陽五行説についても述べています。

成立と歴史的背景

『春秋繁露』の成立に関する記録は、『漢書』の董仲舒伝に由来しています。そこでは彼が123篇の著作を持っていたとされていますが、特に『春秋』についての著作は数十篇以上に及び、その総文字数は十万を超えるとも言われています。しかし、『春秋繁露』という名称は、漢代の文献には現れず、『後漢書』でもその書名は記載されていません。

興味深いことに、『西京雑記』では、董仲舒が蛟龍に関する夢を見たことを契機にこの書を執筆したという伝説が紹介されています。南朝梁時代の阮孝緒が編纂した『七録』ではじめて『春秋繁露』という名前が見られます。このことから、『春秋繁露』の成立時期や、董仲舒自身の真作であるかどうかについては多くの議論が存在しています。

歴代の学者たちの評価は様々で、欧陽脩はその著作の真偽について懸念を示し、朱熹はこの著作を偽作と判断しました。しかし『四庫全書総目提要』は、自身の偽作であるとは考えづらいという見解を示しています。

もちろん、この書における思想的アプローチには特徴があります。『漢書』の五行志に見受けられる董仲舒の災異説は五行説を介在させていませんが、『春秋繁露』では五行思想が重要な役割を果たしています。田中麻紗巳は、タイトルに「五行」を含む9つの論文の中で、初期の4篇は董仲舒の考えに近いと考える一方、残りの5篇は武帝以降の思想を反映しているため、董仲舒によって執筆されたとは思えないとしています。

構成と内容

全体で17巻82篇からなる『春秋繁露』ですが、現行の版では39、40、54の3篇が失われているため、実質的には79篇となります。各巻は様々なテーマに分かれており、君主と臣下、父と子、夫と妻の関係を陰陽という観点から考察しています。こうした考え方はのちの『白虎通』の三綱六紀と深いつながりを持つとされています。

例えば、巻6の内容には道教や法家に近い思想が見られ、他の巻とテーマが異なることも特徴です。これは董仲舒が若いころに執筆した可能性があります。

テクストと注釈

『春秋繁露』は、後の漢魏六朝時代に重視された一方で、唐代以降はあまり注目されなくなりました。北宋においては『崇文総目』にこの書の姿が見受けられますが、完全な形での出版は困難でした。南宋の楼鑰は複数の版を基に近い形での校訂を行ったものの、やはりいくつかの篇を欠いていました。明代の重刻本にも抜け落ちがあり、清代に入るとより多くの注釈書が現れ、影響力が再評価されるようになりました。

影響とその後の評価

『春秋繁露』は、南宋時代の程大昌による著作『演繁露』に影響を与えましたが、彼の持っていた本は不完全でした。この書はまた、『白虎通義』と並ぶ今文説の代表的な書として位置づけられ、清代の公羊学派によっても重要視されてきました。さらには、魏源の『董子春秋発微』や康有為の『春秋董氏学』といった著作もこの書の理念を受け継いでいます。

訳本と研究

日本語訳は日原利国によるものがあり、1990年代には東洋大学の研究グループが註釈稿を発表しています。英語版もあり、現代でもこの著作は活発に研究されています。多様な視点からの考察が行われるため、その学術的価値は今なお高いと言えるでしょう。

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