時宗十二派

時宗十二派とは

時宗十二派とは、念仏勧進聖（念仏を唱え、人々に勧める聖）の流れを汲む12の宗派の集まりです。時宗は一般的に一遍智真を開祖としますが、その教えを広めた「時衆」と呼ばれる人々は、遊行（各地を巡り歩くこと）、踊り念仏、念仏札の配布など、様々な形態で活動していました。

江戸幕府は、寺院を管理するために本末制度を導入し、これらの念仏勧進聖を、清浄光寺を総本山とする単一の「時宗」にまとめました。この時、遊行派を含む様々な念仏勧進聖のグループが「時宗十二派」として扱われるようになりました。この名称は、元禄時代に浅草日輪寺の其阿呑了が編纂した『時宗要略譜』に初めて登場したとされています。

各派の状況

しかし、実際に末寺を持ち、一派を形成していたのは、以下の５派でした。

遊行派: 274寺
一向派（天童派と合わせて）：98寺
霊山派: 55寺
四条派: 52寺
当麻派: 42寺

他の派閥は、寺院数が少なく、御影堂派が22寺、国阿派が8寺、解意派が7寺、市屋派が2寺でした。また、江戸幕府による統制以前に消滅した派も多く存在しました。さらに、其阿呑了は遊行派の立場から、一向派や国阿派を遊行派の傘下に置こうとする意図があったとも考えられています。

各派の詳細

以下に各派の詳細をまとめます。

遊行派：一遍智真の系統で、時宗の主流派。4世遊行上人呑海が開祖。藤沢道場清浄光寺が本寺。呑海は京都に七条道場金光寺を開設したが、明治時代に東山長楽寺に合流した。
当麻派：2世遊行上人他阿真教、3世遊行上人他阿智得の系統。当麻道場（現、当麻山無量光寺）が拠点。4世遊行上人呑海と対立した当麻道場の住持であった真光が開祖。明治36年に遊行派に合流。
四条派：浄阿真観が開祖。四条道場金蓮寺が本寺。京都を中心に活動。金蓮寺は後に寺域が縮小し、1928年に洛北鷹ヶ峯に移転。
一向派：一向俊聖が開祖。番場蓮華寺が本寺。時宗に統合されて以来、独立運動を続け、1943年に浄土宗に転属。
天童派：一向俊聖の系統。天童市にある佛向寺を本寺とする。一向派と共に時宗から分離し、浄土宗に帰属。
国阿派：国阿が再興した雙林寺が本寺であったが、後に霊山正法寺が本寺となり、霊山派に統一された。
霊山派：国阿が譲られた霊山正法寺が本寺。雙林寺が天台宗に復したことにより、国阿派と統一され、霊山派とは名乗らなくなった。
奥谷派：一遍の弟子である仙阿が開祖。道後奥谷の宝厳寺が本寺。室町時代初期に遊行派に合流。
六条派：一遍の異母弟である聖戒が開祖。六条道場歓喜光寺が本寺。聖戒は、自らの系統が一遍の正統的継承者であることを示そうとした。
市屋派：一遍の弟子である作阿が開祖。市屋道場市姫金光寺が本寺。一遍が長く滞在した地であり、空也の遺跡。明治になって遊行派に合流。
御影堂派：一遍の弟子である王阿が開祖。京都五条にあった御影堂（新善光寺）が本寺。戦後に滋賀県長浜市に移転。
* 解意派：一向俊聖の弟子、解意阿が開祖。茨城県の如體山新善光寺が本寺。明治になって遊行派に合流。

その後

昭和18年（1943年）に、一向派と天童派が浄土宗に転属し、時宗から分離しました。昭和22年（1947年）には、時宗の寺院が本末制度を解体し、各派の名称はなくなりました。そして、昭和27年（1952年）には、全ての寺院が宗教法人「時宗」に包括されることとなりました。



このように、時宗十二派は、様々な背景を持つ念仏勧進聖たちが、江戸時代の宗教政策によって時宗に統合された結果生まれたものです。各派はそれぞれ独自の歴史と特徴を持っていましたが、最終的には一つの宗派としてまとまることになりました。

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