王経

王経（おう けい）

王経は、中国三国時代の魏に仕えた軍人・政治家です。字は彦緯（または承宗）。冀州清河郡清河県（現在の河北省）の出身で、その生涯は波乱に満ちたものでした。

概説

寒門から名士へ

王経は元々農家の出身でしたが、文帝の時代に同じ冀州出身の許允や崔賛と共に名士として知られるようになり、中央の官職に就くことになります。しかし、王経が同郡出身の崔林（当時は河間太守）の知遇を得たという記述は史料には見られず、河間出身の崔賛との混同による誤伝であると考えられています。

一度官を退き故郷に戻った際、怪奇現象に悩まされ管輅に占ってもらったところ、吉兆であると告げられます。その後、江夏太守に任じられました。

江夏太守在任中には、大将軍曹爽から私的に絹を贈られ、呉との国境で交易するように指示されます。しかし、王経は手紙を開けることさえせず、官を捨てて再び帰郷しました。この行動に対し、王経の母は彼を部下の前で50回も棒で叩きました。曹爽はこのことを咎めなかったと言われています。母は王経に対し、「農家の子から太守にまで出世したのは分不相応であり、災いの元になるから、もう出仕するべきではない」と忠告しましたが、王経はその言葉に従いませんでした。その後、雍州刺史に昇進しました。

狄道の戦い

魏の正元2年（255年）、蜀漢の姜維が隴西郡に侵攻すると、征西将軍陳泰は蜀軍に備えて王経を狄道に駐屯させました。しかし、王経は洮西で蜀軍と戦い大敗を喫し、数万の兵を失い、狄道城で包囲されるという窮地に陥ります。陳泰の援軍が到着するまで王経は城を守り抜きましたが、「兵糧は10日分にも満たず、救援がなければ城は陥落し、雍州を失うことになっていただろう」と嘆きました。その後、中央に召還され、司隷校尉・尚書に任じられました。陳泰は、王経が蜀軍と交戦せずに狄道の守りを固めるべきであったと批判しています（狄道の戦い）。

甘露の変

魏の甘露5年（260年）5月、司馬氏の専横に耐えかねた皇帝曹髦（高貴郷公）は、王経ら大臣を呼び、自ら兵を率いて司馬昭を排除することを告げました。王経は懸命に諫め、「国家の実権は司馬一門が握っており、宮中から天下四方に至るまで司馬氏のために命を捨てる者ばかりです。主客逆転の状況は今に始まったことではありません。一旦行動を起こせば取り返しがつきません。どうか考え直してください」と進言しました。

しかし、曹髦は勅書を地に叩きつけ、王経の忠告を拒絶し、明元郭太后に決意を伝えるため宮殿へ向かいました。侍中王沈や散騎常侍王業が大将軍府へ行き司馬昭に挙兵の計画を知らせる一方で、王経は曹髦に付き従い説得を試み、司馬昭に密告しませんでした。そのため、事件の後、反逆罪とみなされ、家族と共に処刑されることになります。

処刑される前、王経は母に不孝を詫びました。「母上の言葉に従わなかったために、このようなことになってしまいました」

すると母は微笑んで答えました。「昔、お前を引き留めようとしたのは、相応しい死に場所を得られないのではないかと心配したからだ。今ここで死ぬことをどうして恨むだろうか」

司隷校尉時代の部下であった向雄は、東市で哭泣して王経を弔いました。また、雍州刺史時代の部下であった皇甫晏は、家財を売り払い葬儀の費用を工面し、王経とその家族を埋葬しました。

死後の名誉回復

西晋の泰始元年（265年）、司馬炎（武帝）は詔を下し、「故尚書王経は法によって処罰されたが、その志は評価されるべきである」として、王経の名誉を回復し、その孫を郎中に取り立てました。東晋の袁宏による「三国名臣序賛」では、魏の9人、蜀の4人、呉の7人が名臣として賞賛されており、その中に王経の名も挙げられています。

三国志演義

『三国志演義』では110回から登場します。雍州刺史として魏軍を率い、配下の張明、花永、劉達、朱芳の4将を従えて、蜀軍の姜維、夏侯覇らと対戦しますが大敗を喫します。114回、甘露の変の場面はほぼ史実どおりに描かれており、捕らえられた王経は賈充を罵り処刑されました。

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