裴秀

裴秀（はい しゅう）

裴秀は、中国の三国時代（魏）から西晋にかけて活躍した政治家であり、学者としても名を残しました。字は季彦（きげん）。河東郡聞喜県（かとうぐんぶんきけん、現在の山西省聞喜県）の出身です。父は裴潜（はいせん）、子は裴濬（はいしゅん）と裴頠（はいぎ）。妻は郭配（かくはい、郭淮の弟）の娘です。

生涯

幼い頃から学問を好み、8歳で文章を綴るほどの才能を発揮しました。その人となりは気品と節義にあふれていたと伝えられています。生母の身分が低かったため、正室から冷遇されることもありましたが、毅然とした態度でこれを受け止め、周囲から裴氏の後継者として認められるようになりました。

毌丘倹（かんきゅうけん）の推挙により大将軍曹爽（そうそう）の属官（掾）となり、官吏としてのキャリアをスタートさせます。正始5年（244年）に父が亡くなると爵位を継承しますが、財産は兄弟に譲りました。その後、黄門侍郎（こうもんじろう）の官に欠員が出た際、何晏（かあん）によって賈充（かじゅう）らと共に任用されています。

正始10年（249年）に曹爽が処刑されると一時免職となりますが、後に廷尉正（ていいせい）として復職。司馬昭（しばしょう）の属官（司馬）となると、軍政について積極的に意見を述べ、その多くが採用されました。散騎常侍（さんきじょうじ）に転任する頃には、魏の皇帝である曹髦（そうぼう）から敬愛され、討論会にも参加し、「儒林丈人（じゅりんじょうじん）」と称えられました。

甘露2年（257年）には、諸葛誕（しょかつたん）の反乱鎮圧のため親征に同行。行台（臨時の尚書台）の運営に携わり、数々の策略を立案しました。乱の平定後、尚書（しょうしょ）・魯陽郷侯（ろようきょうこう）に任じられ、1000戸を加増されています。

景元元年（260年）に魏の皇帝が曹奐（そうかん）に代わると、新帝擁立に貢献した功績により尚書僕射（しょうしょぼくや）に遷り、爵位は県侯に進み、700戸を加増されました。

司馬昭は、兄である司馬師（しばし）の後継者がいなかったため、自分の庶子である司馬攸（しばゆう）を後継者にしようとしましたが、裴秀らは嫡子の司馬炎（しばえん）を立てるよう強く進言しました。その結果、咸熙元年（264年）に司馬炎が晋王の世子となります。司馬炎は、世子になれないことを恐れ、裴秀に「人には（高貴となる）相というものがあるのだろうか？」と尋ねたという逸話が残っています。

同年、諸制度が改革され、荀顗（じゅんぎ）が礼儀を定め、賈充が法律を正し、裴秀は官制を改めました。五等爵復活の建議にも貢献し、済川侯（さいせんこう）に封じられました。

咸熙2年（265年）に司馬昭が亡くなり司馬炎が晋王の位を継ぐと、裴秀は尚書令（しょうしょれい）・光禄大夫（こうろくたいふ）となります。同年12月、魏から西晋への禅譲の儀式において重要な役割を担い、その手腕は礼式にかなったものでした。鉅鹿公（きょろくこう）に封じられ、3000戸を領しました。泰始4年（268年）には司空（しくう）に昇進しています。

泰始7年3月7日（271年4月3日）、48歳で死去。元公（げんこう）と諡されました。死因は、寒食散（かんしょくさん）を服用した際に、熱燗ではなく誤って冷酒を飲んだためとされています。皇甫謐（こうぼひつ）の記述によると、薬による発作が生じ、体温の急激な変化や呼吸困難、視線の異常などが続いたため、解毒のために大量の冷水を飲ませ、冷水浴を施したところ、体温を奪われて水中で絶命したと伝えられています。

尚書が政治を統べることは旧例に反すると考え、九卿がその役割を担うべきだと考えていましたが、上奏する前に亡くなりました。臨終の際に記した呉の討伐を訴える草稿は、司馬炎に届けられ、その忠節を称えられました。咸寧年間初め、石苞（せきほう）らと共に、晋王朝の廟庭に祀られています。

長男の裴濬が後を継ぎ散騎常侍となりましたが、早世したため、裴濬の子ではなく、次男の裴頠が後を継ぎました。

人物

朝儀を創始し、刑罰や政治について積極的に意見を述べ、その多くが採用されて故事となりました。儒学にも通じ、『易経』や『楽経』についての論文を著しています。また、土地を管轄する地官としても大きな功績を挙げ、当時としては非常に精巧な地図である『禹貢地域図（うこうちいきず）』『地域方丈図（ちいきほうちょうず）』などを作成しました。考案した製図法『製図六体（せいずろくたい）』は、製図の際の縮尺・距離・方位などの基本方針を定めたもので、中国の地理学史上、多大な貢献をもたらしました。

司馬炎からは強い信頼と寵愛を受けました。官有の稲田の横領を指示したとして司隷校尉（しれいこうい）の李憙（りき）から弾劾を受けたことがありましたが、司馬炎はこれを庇い罪には問いませんでした。

発明家の馬鈞（ばきん）と発石車の改良を巡って議論し、論破したことを吹聴しましたが、傅玄（ふげん）から「馬氏が得意とするのは実際の器用さであって言葉ではない」と非難されました。また、呉の使者として張儼（ちょうげん）が来訪すると、賈充らと共に、彼が知らないことを持ち出して言い負かそうとしましたが、敵いませんでした。

出典

房玄齢等『晋書』裴秀伝

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