諸葛誕

諸葛誕（しょかつ たん）

諸葛誕は、中国三国時代の魏に仕えた武将・政治家です。字は公休（こうきゅう）。徐州琅邪郡陽都県（現在の山東省臨沂市）の出身で、諸葛亮や諸葛瑾といった著名な人物を親族に持ちます。

司馬氏が台頭し専横を極める時代、親交のあった夏侯玄（かこう げん）や、揚州都督の前任者であった王淩（おう りょう）・毌丘倹（かんきゅう けん）らが次々と司馬氏によって滅ぼされたことに強い不安を抱き、反乱を決意します。しかし、最終的には司馬氏によって鎮圧され、自身も命を落とすこととなりました。

生涯

若き日

諸葛誕は若い頃、尚書郎（しょうしょろう）や滎陽県令（けいよう けんれい）といった官職を歴任しました。ある時、魏の皇帝であった曹丕（そうひ）が試運転させた船に同乗した際、強風にあって船が転覆する事故が発生します。虎賁（こひ）と呼ばれる兵士たちが救助に駆けつける中、諸葛誕は「まずは杜侯（とき。杜畿のこと）を助けてくれ」と叫びました。自身も岸に流れ着き、一時意識を失いますが、幸いにも一命を取り留めます。

その後、中央に戻り吏部郎（りぶろう）、御史中丞（ぎょしちゅうじょう）、尚書（しょうしょ）と昇進を重ねました。夏侯玄や鄧颺（とうよう）らと親交が深く、朝廷で名声を博し、人望を集めました。彼らは互いを「四聡（しそう）」「八達（はったつ）」などと称え合い、諸葛誕は八達の一人に数えられました。しかし、董昭（とうしょう）が彼らの行為を弾劾すると、皇帝の曹叡（そうえい）もこれを認め、諸葛誕らは免職となります。この時の詔勅にあった「官吏選抜に当たっては名声有る者を取ってはならない。名声は地に描いた餅のようなもので食べることはできない」という言葉は、故事成語の「絵に描いた餅」や「画餅に帰す」の原典となりました。

都督として

曹叡の死後、曹芳（そうほう）が皇帝に即位すると、夏侯玄らが再び政治を司るようになり、諸葛誕も御史中丞・尚書に復職します。正始4年（243年）には揚州刺史（ようしゅう しし）・昭武将軍（しょうぶしょうぐん）に転任しました。正始8年（247年）には、降伏を申し出た呉の諸葛壱（しょかつ いつ）を出迎えるために出陣しますが、途中で偽りの降伏であることに気づき、撤退しました。

嘉平3年（251年）に王淩が反乱を起こすと（王淩の乱）、諸葛誕は鎮東将軍（ちんとうしょうぐん）・仮節都督揚州諸軍事（かさつととくようしゅうしょぐんじ）・山陽亭侯（さんようていこう）に昇進します。房玄齢（ぼう げんれい）らが編纂した『晋書（しんじょ）』景帝紀（けいていき）では、司馬師（しば し）が魏の大将軍となり、善政が敷かれ人材が揃ったと称えられており、その中で四方を都督した人物として、毌丘倹・王昶（おうちょう）・陳泰（ちんたい）・胡遵（こじゅん）と共に諸葛誕の名が挙げられています。

嘉平4年（252年）の東興の戦いでは、胡遵と共に歩兵・騎兵7万を率いて東興を包囲しますが、少数と侮った丁奉（ていほう）の軍の強襲を受け、大敗を喫しました。魏国内では諸将の責任を問う声も上がりましたが、司馬師は自らに責任があるとして、咎めませんでした。ただし、任地は毌丘倹と交代することになり、諸葛誕は鎮南将軍（ちんなんしょうぐん）・都督豫州諸軍事（ととくよしゅうしょぐんじ）に移りました。

嘉平6年（254年）には、友人であった夏侯玄らが司馬師排斥のクーデターを計画しますが、事前に露見し、誅殺されます。曹芳が廃位され、新たに曹髦（そうぼう）が皇帝に即位しました。

正元2年（255年）正月、毌丘倹と文欽（ぶんきん）が反乱を起こすと（毌丘倹・文欽の乱）、諸葛誕は同心を呼びかける使者を斬り、反乱を起こした両者の罪を人々に知らしめました。司馬師の命を受け、豫州の諸軍を指揮して反乱軍の本拠地である寿春（じゅしゅん）へ向かい、彼らの敗戦後にこの地を占拠しました。閏正月（うるう しょうがつ）、鎮東大将軍・都督揚州諸軍事・儀同三司（ぎどうさんし）に任じられました。その後、呉の孫峻（そんしゅん）率いる援軍が来襲しますが、既に寿春が占拠されていることを知り撤退を図ります。諸葛誕は将軍の蔣班（しょうはん）を派遣してこれを追撃し、敵将の留賛（りゅうさん）らの首級を挙げました。7月には征東大将軍（せいとうだいしょうぐん）・高平侯（こうへいこう）に昇進し、領邑3500戸を与えられました。

毌丘倹・文欽の乱後まもなく司馬師は病死しますが、弟の司馬昭（しばしょう）が後を継ぎ、司馬氏の専横は続きました。親交のあった夏侯玄や、先に揚州都督を務めた王淩・毌丘倹らが次々と滅ぼされ、強い不安を抱いた諸葛誕は、私財を投じて民衆や侠客（きょうかく）らの心を引き寄せ、決死の兵を集め始めます。恩賞の与え方は度を超しており、死罪に相当する者も制度を無視して助けてやるほどでした。

甘露元年（256年）、呉が侵攻の兆候を見せると、諸葛誕はこの機会に乗じて増兵10万を要請しました。朝廷は諸葛誕の反心を察知しますが、彼が旧臣であることを考慮し、まずは召還することを望みます。また、賈充（か ちょう）は司馬昭に対し「諸葛誕は再度揚州に在任し、威名を轟かせ、人望を集めています。いま召し出しても来ることはないでしょうが、災禍は小さく、事変は浅く済みます。召し出さなければ事変は遅れますが、災禍は大きくなります」と進言しました。

諸葛誕の乱

甘露2年（257年）4月24日、朝廷は諸葛誕を司空（しくう）に任じ、召還を命じます。しかし、諸葛誕は「私が三公（さんこう）になるのは王文舒（おう ぶんじょ。王昶のこと）の後のはず。それがいま司空になるとはどういうわけか」と訝しみ、同年5月2日に遂に挙兵します。揚州刺史の楽綝（がく しん）を殺害した後、10数万の官吏・兵士と、1年分の食糧を集め、寿春城を閉ざして守りを固めました。また、呉に対しては末子の諸葛靚（しょかつ せい）らを派遣し、救援を要請しました。呉はこれを喜び、諸葛誕を大司徒（だいしと）・驃騎将軍（ひょうきしょうぐん）・青州牧（せいしゅうぼく）・寿春侯（じゅしゅんこう）に任じ、3万の兵を派遣しました。魏軍による包囲が完成する前に、唐咨（とうし）や、先の反乱に失敗し呉に亡命していた文欽らの軍が増援として寿春に入城しました。

同年6月、魏の司馬昭は皇帝の曹髦を奉じ、内外の諸軍26万を率いて寿春を包囲しました。司馬昭自身は丘頭（きゅうとう）に駐屯し、寿春の包囲を完成させました。城内からは文欽、城外からは呉の朱異（しゅい）が度々包囲の突破を図りますが、いずれも失敗に終わりました。諸葛誕配下の蔣班と焦彝（しょうい）は籠城を諦めて決死の強行突破を進言しましたが、諸葛誕と文欽はこれを退けたばかりか、蔣班の殺害をも企てました。恐怖に駆られた彼らは11月に城壁を乗り越え、魏に帰順しました。また同月、呉の全輝（ぜんき）・全儀（ぜんぎ）兄弟が一族間の争いの末に魏に帰順しました。その同族の全懌（ぜんえき）らは呉から諸葛誕の救援に訪れていましたが、鍾会（しょうかい）がこの状況を利用し、「自分たちが帰順したのは、全懌らが魏軍を撃破できないことが問題となり、処刑されそうになったため」という偽の文書を全輝兄弟に作成させ、全懌らに送りつけました。これを見た全懌らも12月に降伏し、寿春城内の動揺は増していきました。

甘露3年（258年）正月、諸葛誕らは大量の兵器を準備し、連日連夜包囲陣を攻めて強行突破を図りますが、魏軍の迎撃に遭い、兵器は焼き払われ、大量の死傷者を出し、城内に退却するしかありませんでした。城内の食糧は尽き、降伏者は数万人に及びました。文欽は北方の人間を城外へ出して食糧を節約し、呉の将兵だけを残して城を守ることを提案しましたが、諸葛誕は承知しませんでした。このことから元々仲の悪かった2人の関係はさらに悪化し、ついに疑心を募らせた諸葛誕は、文欽を殺害しました。これを受け、小城を守っていた文欽の子である文鴦（ぶんおう）・文虎（ぶんこ）も投降しました。司馬昭により恩赦された彼らが、「文欽の子ですら殺されないのだ！それ以外の者が（降伏しても）何を恐れることがある！」と触れ回ると、寿春城内の動揺は増すばかりでした。

同年2月20日、寿春の城兵が矢を放つ気力も失っているのを確認した司馬昭が総攻撃を仕掛けると、もはや抵抗は皆無でした。逃走を図った諸葛誕は胡奮（こふん）によって斬られ、三族皆殺しとなりました。司馬昭は一部の首謀者を処刑しただけで、呉将の唐咨をはじめとする多くの降兵を許し、彼らの心服を得ました。一方で、諸葛誕側近の兵数百名は降伏を拒否し、斬刑に処されることになりましたが、処刑場に臨んでも皆、「諸葛公のために死ぬのだ、心残りはない！」と口にしました。当時の人々はこれを田横（でんおう）の故事と比較しました。

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