月の満ち欠け (小説)

月の満ち欠け

『月の満ち欠け』は、作家・佐藤正午氏によって綴られた長編小説です。輪廻転生という深遠なテーマを扱い、幾世代にもわたる登場人物たちの数奇な運命と、その中で結ばれる時空を超えた愛の姿を描き出しています。

概要

本作は2017年4月5日に岩波書店より単行本として発表されました。同年7月19日には、第157回直木三十五賞に輝き、大きな注目を集めます。単行本刊行から約2年後の2019年10月4日には、岩波文庫を彷彿とさせるユニークな装丁の「岩波文庫的」シリーズとして文庫サイズ版が刊行されました。これは、著者が冗談めかして口にした「直木賞を受賞したら岩波文庫に入れてほしい」という要望に対し、通常の古典中心の岩波文庫には時期尚早との判断から企画された異例の試みです。実際の岩波文庫とは異なり、背表紙の色が月の光を思わせる金色である点や、表紙のマークが月の満ち欠けを模したデザインになっている点など、遊び心あふれる装丁が特徴です。岩波書店としてはこのようなパロディ的な試みは非常に珍しく、担当編集者も「初めての試み」であると語っています。特別寄稿は伊坂幸太郎氏が手掛けています。

2022年9月時点で、累計発行部数は56万部を突破しており、多くの読者に読まれているベストセラーとなっています。

あらすじ

物語は、東京で平凡ながらも満ち足りた日々を送っていたサラリーマン、小山内堅の生活が暗転するところから始まります。愛する妻・梢と一人娘の瑠璃を、不慮の自動車事故で同時に失ってしまうのです。

深い悲しみに沈む堅のもとに、三角哲彦と名乗る見知らぬ男が現れます。彼は、事故死した娘の瑠璃が、実はかつて自分が深く愛した「正木瑠璃」という女性の生まれ変わりである可能性を語ります。さらに、7歳だった娘の瑠璃が一人で高田馬場へ行ったのは、哲彦を探すためだったのだと明かされるのです。

半信半疑のまま哲彦を追い返した堅でしたが、やがて娘の高校時代の親友である緑坂ゆいから呼び出されます。待ち合わせ場所に現れたゆいは、7歳になる娘の「るり」を連れていました。初対面の堅に対し、「ここのどら焼、好きだよね」と語りかける幼いるり。彼女もまた、過去の記憶を持つ生まれ変わりであり、ゆいは娘から事情を聞き、堅の仕事上の関係者である正木竜之介こそが、哲彦のかつての恋人、正木瑠璃の夫であったことを伝えます。

妻の死後、再起を図っていた正木は、堅の娘である瑠璃が妻の生まれ変わりだと気づき、彼女につきまとっていたのです。瑠璃は、正木が哲彦に危害を加えることを恐れ、母の梢に頼んで哲彦に会いに向かおうとしますが、正木の執拗な追跡から逃れようとして事故を起こしてしまったのでした。

ゆい母子の話をすぐには信じられない堅でしたが、故郷八戸へ戻り、体調を崩した母の世話をするヘルパーの荒谷清美とその娘・みずきに出迎えられた際、決定的な出来事が起こります。堅が東京から帰ってきたことを知ったみずきが、亡き妻・梢と全く同じ仕草で「どら焼の美味しい所？」と尋ねるのです。それは、愛する人が形を変え、何度も巡り会うという、この物語の根幹をなすテーマを象徴する瞬間でした。

主な登場人物

小山内 堅（おさない つよし）: 物語の主人公。妻と娘を事故で失う。八戸市出身。
三角 哲彦（みすみ あきひこ）: 堅の娘・瑠璃が、かつて自分が愛した女性の生まれ変わりだと語る男。
正木 瑠璃（まさき るり）: 三角哲彦が大学生時代に恋に落ちた人妻。最初の「瑠璃」。
小山内 瑠璃（おさない るり）: 堅と梢の娘。正木瑠璃の生まれ変わりとされる。2番目の「瑠璃」。
小沼 希美（おぬま のぞみ）: 正木竜之介に関係する少女。小山内瑠璃の次の生まれ変わりとされる。3番目の「瑠璃」。(※映画版では設定変更あり)
緑坂 るり（みどりさか るり）: 緑坂ゆいの娘。小沼希美の次の生まれ変わりとされる。4番目の「瑠璃」。
小山内 梢（おさない こずえ）: 堅の妻。娘と共に事故死する。
緑坂 ゆい（みどりさか ゆい）: 小山内瑠璃の親友。娘の「るり」を堅に会わせる。
正木 竜之介（まさき りゅうのすけ）: 正木瑠璃の夫。物語に深く関わる人物。(※映画版では設定変更あり)
荒谷 清美（あらや きよみ）: 堅の母親のヘルパー。
荒谷 みずき（あらや みずき）: 荒谷清美の娘。物語終盤で重要な示唆を与える。

書誌情報

単行本: 『月の満ち欠け』（岩波書店、2017年4月5日）ISBN: 978-4-00-001408-3
文庫判: 『岩波文庫的 月の満ち欠け』（岩波書店、2019年10月4日）ISBN: 978-4-00-001411-3

映画版

2022年12月2日には、本作を原作とする実写映画が公開されました。監督は廣木隆一、主演は大泉洋が務め、この二人は初タッグとなりました。第46回日本アカデミー賞では、優秀作品賞をはじめ、優秀主演男優賞（大泉洋）、優秀助演男優賞（目黒蓮）、優秀助演女優賞（有村架純）、新人俳優賞（目黒蓮、菊池日菜子）など、多くの部門で受賞を果たしています。

映画版は、原作小説のストーリーを再構成・短縮しており、特に小説に登場する3番目の生まれ変わりである小沼希美が登場せず、それに伴い正木竜之介の設定も原作とは異なる形で描かれています。

主なキャスト:

小山内堅: 大泉洋
正木瑠璃: 有村架純
三角哲彦: 目黒蓮（Snow Man|Snow_Man）
緑坂ゆい: 伊藤沙莉
正木竜之介: 田中圭
小山内梢: 柴咲コウ
小山内瑠璃: 菊池日菜子
緑坂るり: 小山紗愛
荒谷みずき: 尾杉麻友

主なスタッフ:

監督: 廣木隆一
脚本: 橋本裕志
音楽: FUKUSHIGE MARI
原作: 佐藤正午『月の満ち欠け』（岩波書店刊）

主な受賞歴 (映画版):

第46回日本アカデミー賞 優秀作品賞 ほか主要部門受賞
第96回キネマ旬報ベスト・テン 新人男優賞（目黒蓮）
* 第45回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞（目黒蓮）

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