有吉熊次郎

有吉 熊次郎（ありよし くまじろう）

幕末の激動期に長州藩士として、そして尊皇攘夷派の志士として活躍した人物。通称は熊次郎だが、諱は良明あるいは良朋といった。本姓は藤原を名乗り、墓碑には藤原良明と刻まれている。後に作家として著名となる有吉佐和子の曾祖父にあたる。

生涯

天保13年（1842年）、長州藩士である有吉忠助の次男として生まれた。藩校の明倫館で学問を修めた後、安政4年（1857年）、16歳の時に土屋蕭海の紹介を受けて、吉田松陰が主宰する私塾、松下村塾に入門する。後に同じく塾生となる渡辺蒿蔵は、有吉に誘われて入塾したと伝わる。松陰は塾生たちの個性を見抜き、「才」に岡部富太郎（子揖）、「実直」に有吉（子徳）、「沈毅」に寺島忠三郎（子大）と評し、この三人を連携させて大きな力とすることを考えていた。

安政5年（1858年）、師である松陰が計画した老中間部詮勝の暗殺計画に、血盟を交わして参加したことから、外叔にあたる白根多助によって自宅に幽閉されるという経験を持つ。松陰が野山獄に再び投獄された際には、その罪状を藩に問い質すため、周布政之助ら重役の邸宅に押しかけた塾生八名の中にも名を連ねている。

文久元年（1861年）には、高杉晋作に随行して江戸へと遊学。長州藩邸内に設けられていた学問所、有備館にて研鑽を積んだ。

文久2年（1862年）、高杉をはじめとする同志たちと共に、武州金澤（現在の金沢八景付近）で外国公使を襲撃する計画を立てた。しかし、この計画が事前に藩主の世子である毛利定広に知られたため実行には至らず、謹慎処分を受ける。この謹慎期間中に、有吉を含む高杉晋作、久坂玄瑞、大和弥八郎、長嶺内蔵太、志道聞多（後の井上馨）、松島剛蔵、寺島忠三郎、赤禰幹之丞、山尾庸三、品川弥二郎の計11名が、後の御楯組結成へと繋がる血盟書に血判署名を行った。

同年には、品川御殿山に建設中のイギリス公使館を焼き討ちにする事件にも参加している。

文久3年（1863年）、藩命により航海術を学んだ後、京都学習院への出仕を命じられ、京洛の地で尊皇攘夷運動に深く関わることとなる。同年8月、八月十八日の政変によって京都での活動が困難となり帰国。帰郷後、久坂玄瑞や堀真五郎らと共に山口にて八幡隊を結成し、藩内の情勢安定に尽力した。

元治元年（1864年）、再び京都へ向かい、池田屋事件に遭遇する。吉田稔麿ら同志と会合中に新選組の襲撃を受けるが、激しい乱闘の中から辛くも長州藩邸へと逃れることに成功。事件の数少ない生き証人として、その悲劇的な結末を国許に伝えるという重要な役割を担った。この際、事件を受けて厳重な警戒が敷かれていた京都から脱出するため、飛脚に変装して旅立ったという。同年、急進派の藩士たちと共に上京し、禁門の変（蛤御門の変とも呼ばれる）に参加。激しい戦闘の中で重傷を負い、同志の久坂玄瑞や寺島忠三郎と共に、巻き込まれた鷹司邸内で自刃して果てた。享年わずか23歳であった。

明治24年（1891年）、その功績が認められ、正五位が追贈された。

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