服部潜蔵

服部潜蔵

服部 潜蔵（はっとり せんぞう）は、嘉永3年11月15日（1850年12月18日）に生まれ、明治19年（1886年）12月12日にその短い生涯を閉じた、明治時代の大日本帝国海軍において重要な役割を果たした士官です。通称は政介といい、長府藩（現在の山口県下関市周辺）の出身でした。第二次長州藩留学生としてイギリスへ渡り、帰国後は海軍兵学寮の教官や艦船の副長などを務めましたが、志半ばで病に倒れ夭折しました。最終的な階級は海軍大佐、正六位勲五等でした。

生い立ちと初期の学び

服部潜蔵は、嘉永3年に長府藩士・江本重興の次男として生を受けました。その後、文久元年（1861年）に同じ長府藩士である服部宗茂の養子となります。地元の教育機関である集童場で学んだ後、慶応2年（1866年）の下関戦争での敗戦を受けて藩内に設置された外人応接所に見習いとして勤務しました。この場所での経験が、後の海外への道を開くきっかけとなります。

困難を乗り越えたイギリス留学

外人応接方であった伊藤博文や、グラバー商会のJ・M・ジェームスらの勧めを受け、服部潜蔵はイギリスへの留学を決意します。慶応3年（1867年）、グラバー商会から藩が買い戻した船「第二丙寅丸」に乗り込み、下関を出港しました。しかし、この船旅は平穏なものではありませんでした。他の乗組員からの扱いは非常に厳しく、鮫が泳ぐ海に飛び込まされるといった過酷な経験もしたといいます。上海や香港などを経由し、ようやくイギリスに到着したのは6月のことでした。

イギリスでは、グラバーの父が住むアバディーンシャーに預けられ、皿洗いをしながら英語を習得するという苦労を重ねました。そして1868年、テムズ航海学校に入学し、ロンドン近郊のテムズ川に停泊する練習船「ウースター号」の士官候補生となります。この学校は後に東郷平八郎も学んだことで知られています。

1871年からはイギリス海軍の少尉候補生として実地訓練に入り、地中海艦隊の艦船に乗組みました。難破寸前の事態を経験するなど、実践的な航海術や海軍の規律を身をもって学びました。この頃、同じくイギリスに留学していた同郷の福原和勝が、彼を日本海軍に引き抜こうと奔走しますが、イギリス海軍省との交渉は難航しました。帰国後、福原が兵部省に働きかけた結果、服部潜蔵は海軍官費留学生として認められ、学資の支給を受けることになります。一時文部省も関与しましたが、最終的には海軍の枠組みで支援されることとなりました。1872年、イギリス滞在中に岩倉使節団として渡英していた伊藤博文の説得を受け、日本への帰国を決意します。

帰国後の貢献

明治6年（1873年）7月に横浜へ帰着した服部潜蔵は、東京で福原和勝の家に身を寄せた後、海軍兵学寮で働き始めます。イギリスで培った知識と経験を活かし、ダグラス教師団によるイギリス式海軍教育の導入を補佐するなど、日本の近代海軍教育の基盤作りにおいて重要な役割を担いました。

軍務としては、明治7年（1874年）に「日進」に乗組み、台湾出兵に参加しました。また、明治8年（1875年）にはロシア帝国領カムチャツカへの航海も経験しています。明治10年（1877年）には神戸から「鴨翔丸」で西南戦争の戦況調査にあたり、その功績が認められ勲五等双光旭日章を授与されました。この頃から、海軍卿であった川村純義の秘書官としても活躍し、海軍の要人として認識されるようになります。明治11年（1878年）には来日したドイツ海軍の関係者を、明治12年（1879年）にはウースター号の設計者エドワード・ジェームス・リードを接待するなど、対外的な交流においても重要な役割を果たしました。

明治13年（1880年）には練習艦「比叡」の副長となり、ペルシア（現在のイラン周辺）への遠洋航海を経験します。明治14年（1881年）には英国皇孫アルバート・ヴィクター、ジョージ両王子（後のジョージ5世）が来日した際、松村淳蔵と共に接待委員を務め、その滞在を支援しました。

病と夭折

順調に昇進を重ねていた服部潜蔵でしたが、明治15年（1882年）2月8日、突然の病に襲われます。脊髄中風により下半身が不随となりました。病の原因については諸説あり、一説には日清戦争に備えた演習中に嵐に遭遇し、帆柱を切断した際に甲板に落下し、尾骶骨を打ったことが原因とも伝えられています。発病後、横浜の病院を経て東京大学医学部附属病院、代々木病院と転院しましたが、病状は好転しませんでした。

明治16年（1883年）6月には東海鎮守府の職を辞し、故郷である山口県豊浦郡豊浦村の兄・高吉の家で療養生活に入りました。病状が回復することなく、明治19年（1886年）5月23日に退職。そして同年12月12日、わずか36歳という若さでこの世を去りました。

彼の遺言は「もし北洋艦隊が侵攻してきたならば、自ら打払おう」というものであったと伝えられています。その海への深い思いから、遺体は海を望む日頼寺に葬られました。

服部潜蔵の生涯は短いものでしたが、日本の近代海軍が形成される黎明期において、海外での貴重な実地経験と教育知識を日本にもたらし、その基盤作りに大きく貢献しました。彼の早すぎる死は、当時の日本海軍にとって大きな損失であったと言えるでしょう。

階級

明治6年（1873年）12月7日：海軍大尉
明治12年（1879年）12月27日：海軍少佐
明治15年（1882年）12月20日：海軍中佐
明治19年（1886年）5月：海軍大佐

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