朝鮮の日本酒

朝鮮半島における日本酒、特に清酒について解説します。19世紀末に日本国外で始まった日本酒生産は、21世紀の現代まで続いており、韓国では日本からの輸入も行われています。

生産と消費

韓国では、日本酒は税法上「清酒」（チョンジュ）に分類され、「正宗」（チョンジョン）とも呼ばれます。これは、1930年代に現地生産された日本酒「櫻正宗」が人気を博したことが由来とされています。韓国は、日本以外では日本酒の消費量と自国生産量が最大ですが、ビールやマッコリ、焼酎と比較すると、その出荷量は1%未満です。

北朝鮮への酒類輸出は、2006年以降、日本政府が核実験に対する制裁措置として禁止しています。

韓国での日本酒は、比較的高級な吟醸酒がホテルや高級居酒屋で接待用として提供される一方、普及価格帯のものは大衆的な居酒屋で消費されることが多いです。家庭での消費は少ない傾向にあります。900ml入りの紙パックが最も一般的な販売形態で、日本食レストランでは1本30,000～40,000ウォンと、日本国内の約3倍の価格で販売されています。旧正月などの祭事や先祖供養には清酒が供えられることが一般的で、この需要が清酒市場の約70%を占めるとも言われています。2015年の調査では、韓国産の清酒と日本酒を「同じ酒」と認識する人が53%、「異なる酒」と認識する人が47%でした。原料が韓国産かどうかで区別するケースも見られます。

国内生産

2016年の韓国における清酒の国内生産量は18,753キロリットルで、そのほとんどがロッテ七星飲料の群山工場で生産されています。同社は「清河」や「白花寿福」など4つの銘柄を生産しており、特に冷酒用の「清河」と祭祀用の「白花寿福」は、それぞれ2016年の出荷金額が37.5億円、30億円と主力商品です。麹菌にはニホンコウジカビを使用し、原料米は利川（京畿道）などから供給されています。

輸出入

日本から韓国への日本酒輸出は、2017年時点で年間4,798キロリットル、18億6,400万円に達し、日本からの国別輸出数量で2位、金額で4位となっています。2010年の統計では、日本からの輸入食品の中で金額ベースで2.6%を日本酒が占め、スケトウダラに次ぐ3位でした。

個別の銘柄では、宝酒造の「松竹梅」や朝日酒造の「萬寿」「千寿」などが人気を博しています。また、白龍酒造がOEM元として製造する新潟酒販の「がんばれ父ちゃん」という紙パック酒は、輸入日本酒の中で9.8%のシェアを占めています。

米韓自由貿易協定により、アメリカからの輸入には関税がかからないため、月桂冠のアメリカ工場で生産された普及価格帯の清酒なども輸入されています。1990年代後半から2000年代前半にかけては、年間1,400～2,880キロリットルほどが日本向けにバルク輸出されていましたが、2008年から急減し、代わりにヨーロッパやアメリカ、東南アジアへの輸出が約180キロリットルまで増加しています。

歴史

近代

1876年の日朝修好条規締結後、釜山で対馬出身の荒木某が日本風のどぶろく製造を開始。1879年には壱岐島出身の大久保某が清酒製造を行い、1883年には福田増兵衛が本格的な設備で「向陽」という銘柄の清酒生産を始め、第二次世界大戦終結まで続きました。江戸時代には釜山の倭館に酒屋があったとされますが、詳細は不明です。

朝鮮では伝統的に家庭でのマッコリ生産が盛んでしたが、1905年に設けられた統監府は1909年に酒造法で自家醸造にも酒税を適用。1910年の韓国併合時には、釜山、仁川、元山、馬山、京城、群山、平壌などで日本酒工場が稼働していました。鉄道技師の久慈千治や竹鶴酒造の竹鶴輝次などが、大規模な生産を行った業者として知られています。韓国併合後は、日本人による農場経営が盛んな全羅道、慶尚道、京畿道などで日本酒工場の集積が進みました。

1916年、朝鮮総督府は酒税令を発布し、日本式の製法を推奨するとともに密造を取り締まりました。同年の朝鮮での日本酒生産量は34,260石（6,181キロリットル）、日本からの輸入量は26,799石（4,835キロリットル）でした。齋藤久太郎が1918年に設立した齋藤酒造合名会社は、最盛期には平壌で15,000石（2,706キロリットル）、京城で8,000石（1,443キロリットル）の日本酒を生産し、朝鮮最大の日本酒メーカーとなりました。元山酒造も最盛期には約10,000石（1,804キロリットル）の日本酒を生産し、朝鮮第2位の規模となりました。

白鶴酒造（1928年、仁川）、櫻正宗（1929年、馬山）、菊正宗（1935年、京城）、月桂冠（1942年、清州）といった日本国内の大手メーカーも進出し、製造工場を設けました。1937年には朝鮮の日本酒生産量は132,054石（23,823キロリットル）まで増加し、地域別では慶尚南道と京畿道がそれぞれ全体の32%、22%を占めました。

現代

日本の統治終了後、朝鮮にあった119社の日本酒蔵元の多くは廃業するか、現地人に経営が引き継がれました。一部の蔵では日本人杜氏が1～2年残って指導を行いました。北朝鮮でも生産は続けられたとみられますが、詳細は不明です。日本に引き揚げた蔵元のうち26社は、1955年に復活酒造免許を得て酒造りを再開しました。

1965年、韓国政府は食糧事情改善のため米を用いた酒類製造を制限し、二倍増醸清酒のみが許可されました。1973年には30社以上あった清酒メーカーが再編・集約され、白花酒造、朝海、鶏明の3社になりました。

1983年に鶏明はクラウンビールに買収され「金冠」に名称を変更。1985年には斗山グループが白花酒造を買収しました。1986年に斗山が発売した冷酒用の「清河」は大ヒットし、1989年には白花酒造が85.3%のシェアを獲得しました。

白花酒造（斗山グループ）は1989年に吟醸酒「菊香」、1994年には大吟醸酒「雪花」を発売し、1990年には世界最大級の新工場を群山市に完成させました。一方、朝海は1997年、金冠は1999年頃に清酒の販売を終了したとみられます。1994年には日本からの日本酒の輸入が自由化されました。2000年代に入ると、日本食レストランなどで人気が高まり、日本酒の輸入は急増しましたが、2019年の日韓貿易紛争による日本製品不買運動により、輸入金額は大きく減少しました。

原料米

1910年に朝鮮在来種のターベーを用いた醸造試験が行われましたが、日本酒の酒米としては適性が低いと評価されました。その後、品種改良が進められ、1918年には「穀良都」や「早神力」などが高い評価を受けました。1921年からは「雄町」が栽培されましたが、収量が少ないため、「穀良都」などに取って代わられました。朝鮮半島北部では「陸羽132号」が広く栽培されました。

これらの酒米は朝鮮半島だけでなく、日本全国で使用されるようになり、日本への移出量は年間6～10万石に上りました。朝鮮産の「雄町」を使用した酒が全国清酒品評会に入賞するなど、評価は高かったです。第二次世界大戦後も日本への輸出は行われましたが、「穀良都」や「雄町」などの酒造好適米の生産は済州島を除いてほぼ途絶えてしまいました。

もう一度検索