本因坊秀和

本因坊秀和（ほんいんぼうしゅうわ、文政3年（1820年） - 明治6年（1873年）7月2日）は、江戸時代後期から明治初期にかけて活躍した囲碁棋士です。本因坊家十四世当主であり、その卓越した棋力から「囲碁四哲」の一人に数えられています。伊豆国（現在の静岡県伊豆市）出身で、幼名は土屋俊平、後に恒太郎、そして秀和と改名しました。

生涯

幼少期から入門まで

秀和は9歳の時、父と沼津へ行った際、12歳の少年に囲碁で負けたことがきっかけで、本因坊丈和に入門することになりました。当初、家族の反対で連れ戻されそうになりますが、その道中で再び同じ少年と対局し、互角に打ち合ったことで父親が翻意。正式に丈和の門下生となったという逸話が残っています。13歳で剃髪し秀和を名乗り、15歳で三段、19歳で六段と順調に昇段しました。若い頃は、安井算知(俊哲)を相手に、星打ちなどの野心的な碁も試みていましたが、本因坊家後継者と目されるようになってからは、より堅実な棋風へと変化していきました。

幻庵との争碁

天保9年（1838年）、師である丈和が名人碁所を引退。本因坊元丈の子である丈策が家督を継ぎ、秀和は翌年に跡目となり七段に進みました。この頃から御城碁に出仕し、生涯で29局の御城碁を打っています。また、井上幻庵因碩が名人碁所就任を願い出た際、丈策は秀和を争碁の相手に選びました。天保11年に行われた四番の争碁で、秀和は幻庵に勝利し、幻庵は名人碁所就任を断念しました。さらに天保13年の対局でも秀和は連勝し、幻庵を圧倒しました。

本因坊家当主として

嘉永元年（1848年）、丈策の死去に伴い、秀和は本因坊家十四世当主となりました。同年、安田秀策を跡目に定めましたが、秀策は後に病死します。嘉永3年には八段に昇段しました。

維新後の苦難

安政6年（1859年）、秀和は名人碁所への就任を幕府に願い出ますが、幕末の混乱期に入っており、幕府には囲碁界を顧みる余裕がなく、却下されます。秀和は誰もが認める実力者でしたが、時代の流れには逆らえませんでした。

文久2年（1862年）、跡目としていた秀策がコレラで急逝。秀和は大きな悲しみに打ちひしがれます。翌年、長男の秀悦を新たな跡目としましたが、御城碁は下打ちを最後に廃止され、棋士の対局機会は激減しました。そのため、秀和は研究会「三ノ日会」を組織しますが、資金不足により数年で中断を余儀なくされました。倒幕により家元制度が崩壊すると、本因坊家は経済的に困窮し、住居も失い、苦しい生活を強いられました。明治4年には家禄も奉還となり、さらに困窮を深めました。

死去とその後

明治6年（1873年）、秀和は失意の中でこの世を去りました。後を継いだのは長男の秀悦でしたが、秀悦は病弱で名門の重圧と碁界の混乱に精神を病み、本因坊位は次男の秀栄、三男の秀元へと移り変わり、本因坊家は混乱を極めました。秀和の死後、秀和の弟子である村瀬秀甫は、本因坊家から離れて方円社を設立するなど、碁界は新たな時代へと進んでいきます。

棋風と人物

秀和は、早打ちでありながら、非常に穏やかな性格であったと伝えられています。その実力は、当時から名人級と認められていましたが、幕末の混乱により、名人位に就くことはできませんでした。秀和は、その棋力だけでなく、人柄でも多くの人々に愛されました。秀和、秀策、秀甫の3人は「三秀」と称され、江戸時代末期の囲碁界を代表する存在として後世に語り継がれています。

後継者問題

秀和は、秀策の死後、一門の最強者であった村瀬秀甫ではなく、わずか13歳の長男・秀悦を跡目に指名しました。この決定には、12世丈和の未亡人の意向が働いたとも言われています。この人事に絶望した秀甫は、本因坊家を離れ、中川亀三郎らと六人会を発足させ、後に方円社を設立しました。

顕彰

1990年には、生誕170周年を記念して、伊豆市の秀和の生家の隣にある最福寺に「秀和生誕の碑」が建立されました。また、2006年には日本棋院囲碁殿堂入りを果たしています。最福寺内の郷土歴史資料館には、秀和の展示コーナーも設けられています。

有名局

秀和の代表的な対局として、太田雄蔵との一局が挙げられます。この対局では、秀和は中央作戦を敷いてきた太田に対し、右辺と下辺を低位で受け、最終的に2目勝ちを収めました。この碁について、弟子の本因坊秀甫は「秀和だから打ってもいいのであって、規範としてはならない」と評し、関山仙太夫は「道策と丈和の両棋聖が一緒になっても打てない」と感嘆したと伝えられています。

参考文献

『棋醇』（囲碁名著選集9、池田書店、1979年；囲碁名著文庫7、池田書店　1983年）
荒木直躬『本因坊秀和全集 (全6巻)』誠文堂新光社 1956-60年
小堀啓爾『秀和日本囲碁大系14』筑摩書房 1975年
福井正明『堅塁秀和』日本棋院 1995年
福井正明「秀和遺譜」（「圍碁」誌 1996年）
相場一宏、福井正明「碁界黄金の十九世紀（第17、22、26、29回）」（「碁ワールド」誌 2003年11月、04年4、7、11月号）
福井正明『名人・名局選秀和』誠文堂新光社　2009年

外部リンク

木石庵「本因坊秀和」
* 棋譜ぅ本因坊秀和の棋譜一覧

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