朱雲

朱雲（しゅ うん）

朱雲（生没年不詳）は、前漢時代の学者・政治家であり、字は游。魯国（ろこく）出身で、後に平陵県（へいりょうけん）へ移住しました。

生涯

身長八尺を超える堂々たる体躯で、勇敢さと腕力に優れていました。若い頃は任侠を好み、人の仇討ちを助けることもありましたが、40歳になり心境が変化。博士の白子友（はくし しはくし ゆう）から『易経』を、前将軍の蕭望之（しょう ぼうし）から『論語』を学びました。

蕭望之が罪に問われ逮捕される際、朱雲は彼に自殺を勧め、蕭望之はそれを受け入れました。

元帝（げんてい）の時代、貢禹（こうう）が御史大夫（ぎょしたいふ）であった頃、華陰県丞（かおんけんじょう）の嘉（か、姓は不詳）という者が、朱雲を御史大夫に推薦しました。嘉は、朱雲が文武両道の才能を持ち、忠実で知略に優れていると進言しましたが、太子少傅（たいししょうふ）の匡衡（きょうこう）はこれに反対し、嘉は罪に問われました。

元帝は『易経』の梁丘賀（りょうきゅうが）説を好み、少府（しょうふ）の五鹿充宗（ごろくじゅうそう）に梁丘賀説を学ばせ、『易経』に通じた学者たちと議論させました。しかし、五鹿充宗が権勢と弁舌に長けていたため、他の学者は彼に対抗することを避けました。そんな中、朱雲は五鹿充宗を堂々と論難し、その論破ぶりは「五鹿の長い角を朱雲が折った」と称えられ、朱雲は博士（はかせ）に任じられました。

その後、杜陵県令（とりょうけんれい）となりましたが、罪を犯し恩赦を受けました。その後、方正（ほうせい）に推挙され、槐里県令（かいりけんれい）となりました。

当時、中書令（ちゅうしょれい）の石顕（せきけん）が権勢を振るい、五鹿充宗もその一派となっており、大臣たちは彼らを恐れていました。御史中丞（ぎょしちゅうじょう）の陳咸（ちんかん）は石顕に従わず、朱雲と親交がありました。朱雲は丞相（じょうしょう）の韋玄成（い げんせい）を批判する上書を奉り、陳咸は石顕を非難しました。その後、朱雲に殺人の嫌疑がかかり、朝廷で韋玄成が彼の暴虐ぶりを述べました。陳咸は朱雲にそのことを伝え、朱雲は陳咸の助けを借りて潔白を訴える書を奉ろうとしましたが、丞相がこの事件を扱うことになり、殺人罪で立件されました。朱雲は長安（ちょうあん）に逃亡し潜伏しましたが、丞相は朱雲と陳咸が共謀していることも立件し、二人は投獄されました。死罪は免れましたが、城旦（じょうたん）という労働刑に処され、元帝の時代には用いられることはありませんでした。

成帝（せいてい）の時代、元丞相の安昌侯（あんしょうこう）張禹（ちょうう）は、成帝の学問の師であったことから大変尊重されていました。朱雲はこれを良く思わず、謁見を求め、大臣たちの前で「今、朝廷の大臣は主君を正すことも民を助けることもできず、その地位にふさわしくありません。私に秘蔵の斬馬剣（ざんばけん）を賜り、佞臣（ねいしん）を斬って他の者の目を覚まさせたい」と述べました。成帝が「誰のことだ」と尋ねると、朱雲は「安昌侯張禹です」と答えました。成帝は激怒し、朱雲を連行させようとしましたが、朱雲は宮殿の欄檻（らんかん）につかまり抵抗しました。その際、欄檻が折れてしまいましたが、朱雲は「私は死んでも黄泉（こうせん）で関龍逢（かんりゅうほう）や比干（ひかん）に従うことができればそれで十分です」と叫びました。左将軍（さしょうぐん）の辛慶忌（しんけいき）が朱雲の助命を嘆願したため、成帝は怒りを解き、朱雲を許しました。成帝は折れた欄檻を修理する際、「欄檻は交換してはいけない。元のものをつなぎ合わせてわかるようにし、直臣を顕彰するのだ」と命じました。これが「折檻（せっかん）」という言葉の由来となりました。

その後、朱雲は出仕しませんでした。丞相の薛宣（せつせん）が丞相府に留まって人材を検分してほしいと頼みましたが、朱雲は「私に丞相府の役人になれというのか」と言って断りました。朱雲は九江郡（きゅうこうぐん）の厳望（げんぼう）とその甥である厳元（げんげん）に自分の学問を伝えました。

朱雲は70歳あまりで亡くなりました。病気になっても医者を呼ばず、薬も飲まず、薄葬（はくそう）にするよう遺言しました。

参考文献

班固著『漢書』巻67朱雲伝
班固著『漢書』巻78蕭望之伝

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