朽木藩

朽木藩とは

朽木藩は、江戸時代に近江国高島郡朽木谷（現在の滋賀県高島市朽木地区）を治めた朽木氏の領国を「藩」と捉えた呼称です。ただし、「朽木藩」という呼称を妥当としない見解があることには留意が必要です。

朽木藩の用法

朽木藩という言葉には、主に以下の3つの用法があります。

1. 朽木元綱の領国: 豊臣政権下の大名で、江戸時代初期まで存続した朽木元綱の領国を指します。関ヶ原の合戦後の石高は9590石でした。
2. 朽木稙綱の藩: 元綱の三男で別家を立てた稙綱が、大名に列してから下野国鹿沼を居所とするまでの時期の藩を指します。
3. 交代寄合朽木家の知行所: 元綱の長男に相続される宗家の知行所を指します。大名に準じる家格を踏まえた呼称ですが、一般的な「藩」の定義とは異なります。

歴史

戦国期までの朽木家

朽木氏は、鎌倉時代に朽木荘の地頭となった近江源氏（佐々木氏）の一族です。室町時代には幕府奉公衆を務め、戦国期には足利将軍家から厚い信頼を寄せられました。2人の将軍（足利義晴・足利義輝）が朽木家を頼り、朽木荘に滞留したことでも知られています。

朽木荘は、京都と若狭国・越前国を結ぶ交通路に位置しており、北国方面の大名にとっては京都への入口にあたる重要な地域でした。戦国期に朽木氏は、朽木荘近隣の荘園の所領化や、小領主の家臣化を進め、領域支配を行うようになりました。

朽木元綱の「朽木藩」

戦国期後半から江戸時代はじめにかけての朽木家当主が朽木元綱です。元綱は織田信長、豊臣秀吉に従い、文禄3年（1594年）には伊勢国の検地奉行を務めました。

関ヶ原の戦いでは、当初西軍に属しましたが、本戦において小早川秀秋らとともに東軍に転じました。戦後、徳川家康に本領9590石を安堵されました。

元綱は、石高は1万石にわずかに及ばなかったものの「大名に準じる扱い」を受けたとされ、領地の朽木に居所（朽木陣屋）を構え、参勤交代を行っていました。

朽木稙綱の「朽木藩」

朽木元綱の三男である朽木稙綱は、徳川家光に仕え、側近として栄進しました。寛永13年（1636年）には1万石の大名となり、寛永16年（1639年）には1万石を加増され、正保4年（1647年）に下野国鹿沼において5000石が加増されています。

正保4年（1647年）に鹿沼藩が立藩したとされています。慶安元年（1648年）には初めて領地（鹿沼）入りの暇を得ていますが、これは家光の日光参詣と合わせて行われたものでした。

慶安2年（1649年）2月、稙綱は5000石を加増の上で常陸国土浦藩に移されました。次代の朽木稙昌が丹波福知山藩に移され、朽木家は福知山で廃藩置県を迎えています。

交代寄合朽木家の「朽木藩」

一般的な定義によれば、朽木家は大名ではなく交代寄合という家格の大身旗本ですが、朽木では交代寄合朽木家を「朽木藩」と見なす認識もあります。たとえば自治体史である『朽木村史』では幕藩体制下の朽木谷を統治する領主の体制を「朽木藩」と叙述しています。

領地

関ヶ原の戦いののち、朽木元綱が本領として安堵された9590石の領地は、近江国高島郡朽木荘を中心としていました。

朽木谷は山村地帯であり、米作の条件は悪いながらも、豊かな山林資源を擁していました。また、京都と若狭国・越前国を結ぶ街道が朽木荘を通過していました。

朽木家文書

朽木谷の朽木家は、鎌倉時代から明治維新まで同一地の領主として存在し続けた、数少ない事例の一つです。戦乱による断絶や転封に伴う散逸を免れた結果、朽木家には鎌倉時代以来の中世文書がよく伝えられました。

朽木家文書は、畿内近国の領主が残した中世文書群としては随一の質と量とも評されます。そのうち1066点は、現在は国立公文書館の所蔵となり、1989年（平成元年）に国の重要文化財に指定されています。

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