村田敏郎

村田 敏郎（むらた としろう）は、1919年9月10日に東京府で生まれ、2007年4月17日にその生涯を閉じた、日本の高名な薬学者であり、文部官僚としても活躍した人物です。

彼の専門は薬学、特に薬物動態学と生物薬剤学に深く根差しており、日本においてこれらの分野を開拓し、確立した先駆者と位置づけられています。教育者としては、医学博士（県立鹿児島医科大学、1961年）および薬学博士（東京大学、1961年）の学位を持ち、東京帝国大学や東邦女子医学薬学専門学校で初期のキャリアを積んだ後、文部省や厚生省で技官として国政にも関わりました。その後、札幌医科大学助教授、熊本大学薬学部助教授、教授を経て、1967年には静岡薬科大学薬学部の教授に就任し、薬剤学教室を主宰しました。1981年には同大学の第5代学長を務め、退任後は名誉教授の称号を得ています。また、共立薬科大学を運営する学校法人の理事長としても教育行政に携わりました。

研究者としての主要なテーマは、薬物の生体内での動きや変化を科学的に解明することにありました。特に、薬物動態学や生物薬剤学の研究を通じて、多くの業績を残しています。フェニルケトン尿症に関連する神経化学研究や、緑茶に含まれる成分であるテアニンが中枢神経に与える影響、さらには中枢神経系に作用する薬物の代謝機構についても深く探求しました。これらの研究は、薬物が体内でどのように吸収され、分布し、代謝され、排泄されるのか、すなわち薬物の生体内運命を理解する上で極めて重要でした。医学者の有田隆一氏と共編纂した著書『生物薬剤学』は、この分野における「名著」として高く評価されています。薬学者の内海英雄氏は、村田氏の功績を称え、「日本では創世期にあった『薬物動態学』の分野を開拓された」とし、「新たに『薬剤学』の教育・研究に『生物薬剤学』を導入し」たと評しています。

村田氏は教育者としても優れていました。病院薬局や国の薬事行政機関での豊富な経験に基づいた幅広い視点を持つ指導者として知られ、熊本大学での講義は、薬学者の相本太刀夫氏が「ウィットに富み、エスプリの利いた」と回想するほど学生に人気がありました。

また、日本の薬剤師教育の進展にも多大な貢献をしました。薬剤師に対する生涯学習の重要性をいち早く認識し、財団法人日本薬剤師研修センターの創設に尽力しました。1989年にはその初代理事長に就任し、後に第2代会長も務め、センターの発展に貢献しました。これらの功績により、日本薬剤師研修センター名誉会長の称号を受けています。

私生活では、キリスト教を信仰し、講義の前には必ず祈りを捧げる習慣があったといいます。趣味は料理で、静岡薬科大学勤務時代には自宅で新年会を開き、門下生に手料理を振る舞うなど、親交を深めました。また、英語が非常に堪能で、旧制高校時代から原書を読みこなし、海外留学時にはネイティブと間違えられるほど流暢に話したというエピソードが残っています。学術書だけでなく、随筆集『すずろごと』も出版するなど、幅広い才能を持っていました。教え子との絆を非常に大切にする人物でした。

長年の教育・研究、そして薬学界への貢献に対し、1992年には勲二等瑞宝章が授与されています。また、日本薬学会有功会員、日本薬物動態学会名誉会員といった名誉ある称号も受けています。テアニン研究で斎藤奨励賞、日本学校薬剤師会や日本薬学会東海支部からも表彰されるなど、その業績は高く評価されました。

村田敏郎氏は、薬物動態学と生物薬剤学という新たな学問分野を日本に根付かせ、教育・研究を通じて多くの後進を育成し、さらに薬剤師の生涯学習の仕組みを創設するなど、日本の薬学界に計り知れない影響を与えた偉大な人物として記憶されています。

主な著作：

『生物薬剤学』（有田隆一と共編）
『薬剤学』（編著）
『すずろごと』（随筆集）
『入門薬物代謝』（G・G・ギブソン, P・スケット著、共訳）

関連項目：

薬学
薬物動態学
薬剤学
テアニン
* 日本薬剤師研修センター

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