杜奕瑾

杜奕瑾（トゥ・イーチン）：台湾発のイノベーター

杜奕瑾（トゥ・イーチン、1976年9月27日生まれ）は、台湾・高雄市出身のソフトウェアプログラマーであり、台湾のみならず世界最大規模とも言われるインターネット掲示板「PTT（批踢踢）」の創設者として知られています。アメリカ国立衛生研究所での研究員、マイクロソフト社での人工知能部門の要職を経て、現在は台湾AIラボを運営し、台湾のAI技術発展に尽力しています。

学生時代とPTT創設

杜奕瑾は、高雄市立の小中学校、高校を経て、1994年に国立台湾大学情報工学部に進学しました。大学在学中には、大学内のBBS「椰林風情」の管理人も務めていましたが、制約の多さから独自の掲示板開設を決意。それが「PTT」の始まりでした。「万物を抱擁し、自由独立で、何人にも完全な支配を受けない」という理念のもと、PTTは瞬く間に多くのユーザーを集め、台湾のインターネット文化を牽引する存在となりました。PTTの運営を支えるため、大学サークル「台大BBS研究社」も設立し、フリーソフトの発展にも貢献しました。

大学卒業後も、PTTの管理者たちは台湾のIT業界で起業し、その影響力を示しました。また、杜奕瑾自身も検索エンジン「蕃薯藤（Yam）」の運営に初期から参加し、台湾屈指のポータルサイトへと成長させました。

アメリカ国立衛生研究所での研究

2003年には、スタンフォード大学への入学が内定していましたが、財産証明の問題で入学を断念せざるを得ませんでした。しかし、その経歴がアメリカ国立衛生研究所の目に留まり、ヒトゲノム研究所に所属することになりました。ここでは、遺伝子配列や癌の自動検出研究に従事しました。同時に、ワシントンDC玉山科技協会や北米台湾商会の役員も務め、国際的な活動も行っていました。

マイクロソフトでのAI研究

2006年、マイクロソフトに移籍。Googleではなく、ゼロから何かを創造することに魅力を感じたと語っています。マイクロソフトでは、検索エンジン「Bing」の設計やビッグデータ研究に携わり、後に人工知能研究部門でアジア太平洋地区のエンジニアリング・マネージャーに昇進しました。AIアシスタント「Cortana」開発チームのマネージャーとして、Cortanaの商業化製品システムの構築を主導し、中国語圏では「Cortanaの父」と呼ばれるようになりました。

2015年には、クロスプラットフォーム仕様のAIアシスタントを発表。翌年にはマイクロソフトの開発者カンファレンスで、人工知能戦略と協業戦略を発表し、世界から注目を集めました。マイクロソフトCEOのサティア・ナデラは、杜奕瑾率いるCortanaチームを「世界初のクロスプラットフォームAIアシスタントを生み出した」と称賛しました。この発表は、GoogleやFacebookといった競合他社がAI分野への取り組みを加速させるきっかけにもなりました。

台湾人工知能実験室の設立

2017年、マイクロソフトを退職し、非営利の「台湾AIラボ」を設立しました。ここでは、「ヘルスケア」「スマートシティ」「人的交流」をテーマに、台湾のAI技術発展とソフトウェア業界の競争力向上を目指しています。台湾のIT産業がハードウェア生産に偏っていた状況を打開し、高度なソフトウェア人材の育成に力を入れています。国内外のトップクラスの教授陣やソフトウェア人材を集め、国内企業との共同実験を通じて、台湾のソフトパワーを確立することを目指しています。

AI音声入力とCOVID-19対策

AIラボでは、台湾訛りの強い中国語や独自の言い回しに対応した音声入力アプリ「雅婷逐字稿」や音声入力システム「雅婷一号」を開発しました。これは、台湾のコンピュータ入力ソフトが中国大陸由来のものに依存している現状を変えようとする試みです。ASUSとの共同開発で、スマートスピーカーにも搭載されています。

COVID-19の流行時には、AI技術を駆使した検疫時間短縮やワクチン開発支援に貢献しました。また、AIによるX線画像分析を通じた診断補助システムを開発し、国内外に無償提供しました。接触歴記録アプリ（通称：社交距離APP）の開発にも携わり、個人情報を保護しながら濃厚接触者の追跡を可能にしました。

その他の活動

杜奕瑾は、台湾フリーウェア協会の会長も務めています。また、2019年からは中華電信の社外取締役、行政院文化部傘下の文化内容策進院の役員にも任命され、台湾社会の様々な分野で活躍しています。

PTTとの関わり

PTTは、現在「Professional Technology Temple」という名称で知られていますが、これは杜奕瑾の個人IDに由来します。PTTの創設者として、彼はその文化や価値観を非常に重視しています。また、PTTは、形式上は匿名でありながら、台湾の言論プラットフォームとして大きな役割を果たしています。杜奕瑾は、PTTが商用化されていない理由について、誰にも支配されない言論プラットフォームを維持するためだと語っています。

PTTのAI化プロジェクト「ptt.ai計画」も進めており、ブロックチェーン技術を用いてPTTの仮想通貨P幣の安全性を強化し、新たな用途を拡大しようとしています。

郷民からの支持

PTTのユーザーは、杜奕瑾のことを「創世神」や「PTTの父」と呼び、その影響力を高く評価しています。定期的に開催される「PTT風雲人物投票」では、常に上位にランクインし、そのカリスマ性を示しています。

人物像

杜奕瑾は、両親から問題解決能力や情熱を重視する教育を受けて育ちました。幼少期から溶接や冷房修理の技術を身につけ、ものづくりにも関心を持っています。また、自身の好きな音楽として5566の「我難過」を挙げています。PTTの利用については、毎日ログインし、八卦板を最も閲覧していると語っています。

杜奕瑾は、台湾のIT業界を牽引するリーダーであり、その活動は台湾社会に大きな影響を与え続けています。彼の今後の活躍にも目が離せません。

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