東の沢ダム

東の沢ダム：日高山脈に抱かれた発電用ダム

北海道新ひだか町、静内川水系コイカクシュシビチャリ川に位置する東の沢ダムは、北海道電力が管理する発電用ダムです。高さ70メートルを誇る重力式コンクリートダムで、最大2万キロワットの発電能力を備えています。このダムは、北海道電力の社運をかけた一大プロジェクト『日高電源一貫開発計画』の中核を担う施設の一つとして、静内川水系では最も新しいダムとして建設されました。

自然と技術が織りなす壮大なプロジェクト

コイカクシュシビチャリ川は、アイヌ語で「東を通る染退川」を意味する名称を持つ静内川の上流部に位置する支流です。日高山脈を源流とし、西から流れ、静内川に合流します。ダム建設地は、日高山脈の険しい峡谷地帯にあり、自然環境の厳しさは建設作業に大きな影響を与えました。

日高電源一貫開発計画は、鵡川、沙流川、新冠川、静内川の四水系に及ぶ大規模な計画でした。11箇所の発電所とダムを建設し、それらをトンネルで繋ぎ、相互に水の融通を行うことで効率的な水力発電を行うことを目的としていました。総出力67万キロワットの電力を供給し、北海道全域への電力供給を強化することを目指した、北海道電力にとって極めて重要な計画でした。

東の沢ダムの建設は、この計画の後半に位置づけられました。計画開始当初は、静内川本流に取水堰を設け、小規模な水路式発電所を建設する計画がありましたが、最終的に支流であるコイカクシュシビチャリ川にダムを建設し、その水を活用する現在の計画に決定されました。

安全第一を貫いたダム建設

日高電源一貫開発計画は、日高山脈の厳しい自然環境の中、多くの犠牲を伴って進められてきました。東の沢ダム建設にあたっては、過去の事故を教訓に「慰霊碑のない発電所」を合言葉に、安全第一を徹底した工事体制が敷かれました。

厳寒の冬期に工事を進め、作業員の安全意識を高めるための毎朝のミーティングやヒヤリ・ハット防止運動を徹底しました。また、険しい山道での工事車両の運転には、昼間の点灯と時速30キロメートルの速度制限を義務付けるなど、細心の注意を払いました。その結果、約4年間の工事を無事故・無災害で完了させることができました。

東の沢発電所：先進技術と無人管理

東の沢ダムに付設された東の沢発電所は、最大出力2万キロワットのダム水路式発電所です。コイカクシュシビチャリ川本流と静内川の水を水源とし、取水堰から取水した水をダム湖である東の沢調整池に導水、そこからトンネルを通じて発電所へ送水します。発電後は、再びトンネルを通じて高見ダムの高見湖まで送水され放流されます。

発電所には、電動サーボモーターやデジタル制御装置が導入され、無人制御による遠隔操作と、静内川水系の他のダム・発電所との統合管理を実現しています。この技術は、当時としては北海道電力において2万キロワットクラスの水力発電所としては初の導入事例でした。

東の沢ダム・発電所の完成により、1956年に開始された日高電源一貫開発計画は、当初計画された11の発電所・ダム全てが完成することとなり、大きな区切りを迎えました。

アクセスと周辺環境

東の沢ダムは、新ひだか町中心部から車で約1時間30分かかる日高山脈の奥深くに位置し、周辺には人家はありません。上流にはペテガリ岳がそびえ立ち、登山客のための山荘もあります。しかし、険しい山道であるため遭難事故の危険性も高く、ダム建設中にも遭難事故が発生しています。ダム周辺は、秋には紅葉が美しく彩る名所でもあります。

ダムへのアクセスは、国道235号またはJR日高本線静内駅から車で向かうことができますが、静内ダム以遠は通行止めとなっているため、現在、東の沢ダムへの一般車両の通行はできません。

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