東バライ

東バライ：アンコール地域の壮大な貯水池跡

東バライ（ひがしバライ、クメール語: បារាយណ៍ខាងកើត、フランス語: Baray oriental、英語: East Baray）は、かつてカンボジアのアンコール地域に存在した、巨大な貯水池の跡です。アンコール・トムの東に位置し、東西に長く伸びるその形状は、かつての壮大な規模を物語っています。現在では干上がっていますが、その遺構は今もなお、歴史的な景観を形成しています。

歴史

東バライは、900年頃、クメール王朝のヤショーヴァルマン1世の治世に建設されました。東西約7,150メートル、南北約1,740メートルという巨大な規模は、アンコール地域で2番目の大きさを誇ります。プノン・クーレンから流れるシェムリアップ川を水源とし、約5,000万立方メートルの水を貯水していたと推定されています。雨季には6,000万立方メートル、乾季にも3,600万立方メートルの貯水量を誇り、その貯水池としての表面積は1,210ヘクタールにも及びました。これは、先王インドラヴァルマン1世が築いた「インドラタターカ」の約4倍もの大きさであり、堤防の建設には約800万立方メートルの盛り土が必要とされたとされています。

バライの四隅からは、建設を示す石碑が発見されており、初期には、その築造者であるヤショーヴァルマン1世にちなんで「ヤショダラタターカ」と呼ばれていました。中央には高台に位置する寺院、東メボンがあり、東バライが水を湛えていた時代には、島のような存在でした。

しかし、現在では東バライは干上がっており、その底面は農地として利用されています。それでも、衛星写真からは、かつての輪郭をはっきりと見ることができます。

機能

東バライの目的については、学者間で意見が分かれています。有力な説の一つは、灌漑用水の確保を目的としたというものです。東バライによって灌漑された面積は、6万から7万ヘクタールに及ぶと推定されています。しかし、バライの機能について直接言及した碑文は発見されていません。

一方で、バライは、クメールの宗教観を象徴するものであったという説も有力です。この説では、バライはヒンドゥー教の神々が住むメール山を取り巻く、創造の海を象徴的に表していると解釈されています。

東バライは、単なる貯水池としてだけでなく、宗教的な意味合いも持つ、クメール文化を象徴する存在として、今日までその歴史を伝えています。

参考文献

石澤良昭『アンコール・ワット』講談社〈講談社現代新書〉、1996年。ISBN 4-06-149295-0。
坪井善明 編『アンコール遺跡と社会文化発展』連合出版、2001年。ISBN 4-89772-166-0。
Charles Higham (2001). The Civilization of Angkor. University of California Press

関連項目

西バライ

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