東日本大震災による各種施設の被害

東日本大震災による各種施設の被害

東日本大震災（東北地方太平洋沖地震）は、広範囲にわたり深刻な被害をもたらしました。ここでは、各種施設が受けた具体的な被害について詳しく見ていきます。

政府の推計被害額

2011年6月24日、内閣府は東日本大震災によるストック（建築物、ライフライン施設、社会基盤施設など）の推計被害額を発表しました。この推計は復旧・復興の議論の参考とするためのもので、福島第一原子力発電所事故による被害額は含まれていません。国土交通省によると、阪神・淡路大震災の推計被害額は約9兆6000億円でした。

産業施設

製油所と工場

岩手県から千葉県にかけての太平洋沿岸では、多くの製油所や工場が被災し、産業界に大きな影響が出ました。例えば、千葉県市原市のコスモ石油千葉製油所では、高圧ガスタンクが落下し、ガス管が破裂して爆発・炎上しました。この火災で25基のガスタンクのうち少なくとも13基が失われ、作業員6人が負傷しました。この火災に関するデマも広がる事態となりました。

また、宮城県仙台市のJX日鉱日石エネルギー仙台製油所では、陸上出荷設備で火災が発生しました。岩手県久慈市の久慈国家石油備蓄基地では、地上設備がほぼ全滅し、原油の受け渡しが不可能になりましたが、地下の原油貯蔵には影響がありませんでした。この基地は2014年4月末に復旧工事を完了しました。茨城県鹿嶋市の住友金属工業鹿島製鉄所では、ガスホルダーで火災が発生しました。

官公庁

官公庁施設は、東北、関東、北海道、中部で計370施設が被害を受けました。具体的な被害総額は集計されていませんが、主要な施設の被害状況は以下の通りです。

公共施設

ホール・図書館

本震により、東北地方と関東地方の広い範囲で、ホールの天井崩落や建物の倒壊・損壊が発生しました。東京都千代田区の九段会館では、天井の一部が崩落し、2人が死亡、26人が重軽傷を負いました。この事故を受け、九段会館は閉館し、国へ返還されました。この件では、会館管理者が業務上過失致死罪で提訴されています。神奈川県川崎市のミューザ川崎シンフォニーホールも天井が崩落し、2013年3月31日まで閉館となりました。千葉県船橋市西図書館では、再開館が困難となり長期休館となりました。千葉県総合スポーツセンター内の千葉県野球場では、外壁や内装が落下し、一時立ち入り禁止となりました。茨城県立図書館では、建物の損壊と蔵書約61万冊のうち8割以上が散乱する被害を受けました。埼玉県川口市民会館は、安全性の問題から休館となり、後に廃止されました。

学校

震災は年度末の卒業式や終業式、そして入学式を控えた時期に発生し、多くの学校で卒業式や入学式を元の校舎で行うことができませんでした。岩手県立高田高等学校は津波で校舎が全壊し、岩手県立大船渡東高等学校の校舎を借用して新学期を迎えました。宮城県石巻市立大川小学校では、津波により多数の児童と教職員が犠牲になりました。栃木県の那須高原海城中学校・高等学校は、校舎の被災により東京都内の仮校舎へ移転し、その後閉校しました。茨城県立水戸第二高等学校では、校舎や体育館が被災し、建て替えや耐震工事が行われました。埼玉県さいたま市立栄小学校は、校舎が沈下して使用不能となり、仮設校舎を経て新校舎が建設されました。千葉県立浦安南高等学校は、液状化被害により旧千葉県立船橋旭高等学校校舎へ一時移転しました。

病院

宮城県、岩手県、福島県の33の災害拠点病院のうち、31病院が一部損壊の被害を受けました。この震災を機に、全国的に病院の耐震診断や建て替えが進められました。特に甚大な被害を受けた病院として、公立志津川病院では4階まで津波が押し寄せ、多くの患者と職員が犠牲になりました。石巻市立雄勝病院、岩手県立高田病院、双葉病院でも、多数の死者・行方不明者が出ました。

博物館

宮城県慶長使節船ミュージアムでは、津波により展示室が壊滅し、復元船サン・ファン・バウティスタ号も一部破損しました。宮城県石巻市の石ノ森萬画館も、津波により激しく損傷しました。千葉市花の美術館では、液状化により前庭や通路が被害を受け休館しましたが、後に再開館しました。

商業施設

商業施設の建物被害は、各市町村や企業単位で集計され、全容は不明です。内閣府の発表によると、総合スーパーの約3割、コンビニ店舗の4割強が営業停止となりました。各地のスーパーマーケット、コンビニエンスストア、その他小売チェーン、レジャー施設が大きな被害を受けました。

レジャー施設

日本動物園水族館協会の発表では、14の動物園・水族館で被害がありました。また、テーマパーク、総合レジャー施設、遊園地でも様々な被害が発生しました。映画館やシネマコンプレックスでも、天井の崩落や建物の損傷が多数発生しました。宮城県内では、5月時点でも復旧の見通しが立たない施設が多くありました。関東では、被害の軽微な施設は4月中に再開しましたが、茨城県や千葉県のシネマコンプレックスでは、復旧に長期間を要しました。

史跡・文化財

文化庁が確認した文化財の被害は463件に及びました。旧江戸城田安門、水戸徳川家墓所、仙台城では石垣が崩れました。仙台東照宮では石灯籠の多くが崩壊し、旧弘道館では鐘楼が全壊しました。瑞巌寺では壁が脱落し、大崎八幡宮では板壁や漆塗装、彫刻が破損しました。岡倉天心ゆかりの六角堂は津波で消失し、後に再建されました。日本基督教団福島教会は、修復費用が賄えず取り壊されました。偕楽園では地盤沈下が発生し休園、梅まつりも中止となりました。鹿島神宮大鳥居が倒壊し、後に再建されました。白河小峰城では石垣が崩壊し、真岡市の岡部記念館「金鈴荘」では半解体による修理が必要となりました。佐原の町並みでは、歴史的建造物に被害が発生しました。

科学技術関連施設

東北太平洋岸や関東東部の科学研究施設や実験施設も大きな影響を受けました。東北大学では、学生や入学予定者が津波で犠牲になり、多くの施設や実験機器が損壊しました。筑波大学、産業技術総合研究所、高エネルギー加速器研究機構、J-PARCでは、地震により多くの装置が損壊し、停電により遺伝子サンプルや生物が失われました。東京大学大気海洋研究所は全壊し、宇宙航空研究開発機構の筑波宇宙センターでは、一時的に管制業務をNASAに移行しました。情報通信研究機構のおおたかどや山標準電波送信所では、地震による停波や福島第一原子力発電所事故の影響で長期間停波し、復旧作業が行われました。国立天文台の水沢VLBI観測所は、地震により大きく移動しました。

海浜・干潟

宮城県仙台市の蒲生干潟は津波により壊滅し、再生不能と判断されました。国営ひたち海浜公園は休園後、部分的に再開園しました。千葉県西部の三番瀬でも、液状化により大きな被害が発生しました。

治水・利水施設

福島県須賀川市の藤沼ダムが決壊し、死者・行方不明者が発生し、貯水量を失いました。埼玉県幸手市では、江戸川堤防が陥没しました。岩手県奥州市では、石淵ダムにひび割れが発生し、千葉県浦安市の境川や香取市の小野川では護岸が崩壊しました。

その他

栃木県益子町では、益子焼の在庫が損壊し、登り窯が損傷しました。東京都内では、お台場のテレコムセンターや海上保安庁海洋情報部庁舎、各地で火災が発生しました。東京タワーのアンテナが曲がり、減力放送となりました。和歌山県太地町では、津波により生け簀のイルカが死にました。

東日本大震災は、広範囲にわたり多岐にわたる施設に甚大な被害をもたらし、その復旧には長い年月と多大な努力が必要とされました。

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