松島彜

松島 彜

1890年2月14日に山形県山形市で生を受け、1985年10月9日に95歳でその生涯を閉じた松島 彜（まつしま つね）は、日本の近代音楽史において作曲家、そして教育者として重要な役割を果たした人物です。

彼女は、旧水戸藩士で裁判官であった松島茂徳を父に持ち、母米子の長女として生まれました。幼少期から音楽への非凡な才能を示し、福島県立福島高等女学校在学中には学業、特に音楽の成績が群を抜いており、教師から音楽の専門教育を受けることを強く勧められます。この勧めに従い、女学校卒業後の1906年に東京へと上京。東京音楽学校（現東京藝術大学音楽学部）への入学を目指しました。

1907年に東京音楽学校予科に入学。翌年、本科器楽部ピアノ専攻に進み、戸倉やま、ヘルマン・ハイドリヒ、ルドルフ・ロイテルといった錚々たる指導者からピアノと作曲の薫陶を受けます。1911年の本科卒業後、さらに研鑽を積むため研究科へ進学を希望しましたが、当時の研究科作曲部には女性の入学が認められていないという壁に直面します。やむなく研究科器楽部ピアノ専攻に進み、ここではロイテル、ハインリヒ・ヴェルクマイスター、パウル・ショルツに師事し、作曲の指導も継続して受けました。ヴェルクマイスターの門下生であった小松耕輔、本居長世、梁田貞、中山晋平、弘田龍太郎といった著名な作曲家たちとは、後に親睦団体「たぬき会」を結成し、交流を深めています。

音楽学校での学びと並行して、ヨーロッパへの研究旅行を視野に入れ、東京外国語学校でイタリア語を習得しましたが、1912年に学習院女子部（後の女子学習院）院長であった乃木希典からの強い要請を受け、同校の教師となります。また、同時期に父が病に倒れたこともあり、海外留学を断念することとなりました。

教育者として女子学習院で多くの生徒を指導する傍ら、作曲活動にも精力的に取り組みました。1922年には東京音楽学校奏楽堂、1924年には帝国ホテルで作品発表会を開催し、自作の室内楽曲、独奏曲、声楽曲などを披露。その後も女子学習院教授として教鞭を執り続け、文部省の教科書編纂委員も務めるなど、日本の音楽教育の基盤作りにも貢献しました。

彼女の創作活動は多岐にわたり、ピアノ曲、歌曲、管弦楽曲、室内楽曲、そして晩年には仏教音楽など、あらゆる分野で1000曲を超える膨大な作品を残しています。特に童謡分野では、世代を超えて親しまれている「おうま」「赤い鳥小鳥」「手まり歌」などが代表作として知られています。また、鎌倉学園の校歌作曲など、学校音楽にも足跡を残しました。

第二次世界大戦後の1946年に女子学習院を退官した後も、音楽への情熱は衰えませんでした。自宅を開放して「大明塾」を主宰し、ピアノや合唱の指導を続けながら、ライフワークとして仏教音楽の研究と創作に深く傾倒していきます。この時期にカンタータや声明といった宗教曲を数多く発表しました。1964年には神奈川県鎌倉市の円覚寺近くに居を移しています。

長年の功績に対し、1945年には勲四等瑞宝章、1967年には勲四等宝冠章が授与されました。彼女の教え子の中には、朝吹英一や寺島尚彦といった著名な音楽家も輩出されています。

1985年10月9日、脳軟化症のため横浜市の病院でその波乱に富んだ生涯を閉じました。墓所は茨城県水戸市の常磐共有墓地にあります。松島 彜は、日本の音楽教育の発展に寄与するとともに、多様なジャンルで豊かな創作活動を展開し、後世に多大な遺産を残した作曲家・教育者として記憶されています。

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