松島栄一

松島 栄一（まつしま えいいち）は、大正6年（1917年）8月24日に大阪府大阪市天王寺区で生を受け、平成14年（2002年）12月12日に85歳でその生涯を閉じた日本の歴史学者です。

学歴と初期のキャリア

地元の大阪市立天王寺第五尋常小学校（現在の大阪市立五条小学校）、灘中学校を経て、昭和10年（1935年）には早稲田高等学院へ進学。昭和12年（1937年）には早稲田大学文学部史学科に入学しました。大学在学中には、教えを受けた歴史家、津田左右吉から大きな影響を受けました。

大学卒業後の昭和15年（1940年）、花見朔巳の紹介で東京帝国大学史料編纂所に勤務することになります。当時の東大国史研究室は平泉澄の影響下にありましたが、史料編纂所は実証主義を堅持しており、その環境下で家永三郎や遠山茂樹といった後の著名な歴史学者たちと同僚となったことは、彼の学問と思想形成に重要な影響を与えました。この時期に歴史学研究会や「羽仁サロン」に参加し、マルクス主義への傾倒を深めていきます。

戦中・戦後の活動

昭和18年（1943年）、歴史学研究会の幹事に就任しますが、同年中に応召されます。立川飛行場で航空整備兵として終戦を迎えました。戦後は、活動が停滞していた歴史学研究会の再建に尽力し、後にその代表者となるなど、学会復興の立役者の一人となりました。歴史学研究会が発行する学術誌『歴史学研究』や、新たに発足した民主主義科学者協会が刊行した『歴史評論』といった誌上で精力的に論文を発表し、研究活動を活発に行いました。

歴史教育への貢献

昭和22年（1947年）からは、母校である早稲田大学で講師として教鞭をとるようになります。同年には、中学校用の日本史教科書編集委員を務めましたが、この教科書は残念ながら刊行には至りませんでした。続いて昭和24年（1949年）には、中学校社会科学習指導要領の改定作業に参加。この際、三年生の課程の終わりに「平和」に関する単元を設けることを強く主張し、その思想が盛り込まれましたが、その後まもなく再改定されてしまいました。歴史教育者協議会の設立にも中心的な役割を果たすなど、歴史教育の現場とその改革にも深く関わりました。

晩年の活動と死去

昭和29年（1954年）からは再び史料編纂所に戻り助手として勤務。昭和52年（1977年）には講師となり、翌昭和53年（1978年）に定年退官しました。その後、昭和57年（1982年）から平成3年（1991年）にかけて大東文化大学で教授を務めました。この時期には、それまで活発に参加していた歴史学会からはやや距離を置くようになりますが、歴史教育者協議会の委員長を務めるなど、教育分野での活動は継続しました。平成14年（2002年）12月12日、脳閉塞のため85歳で亡くなりました。

研究分野と著作

松島栄一の研究分野は、思想史、文化史、史学史、そして歴史教育と多岐にわたります。特に高橋磌一、宮森繁との共著『日本の国ができるまで』は毎日出版文化賞を受賞するなど、一般向けの歴史啓蒙書でも評価を得ました。

彼の主な著書には以下のようなものがあります。

『太平洋戦争』（福村書店）1951年
『世界伝記全集　福沢諭吉』（講談社）1960年
『忠臣蔵』（岩波新書）1964年
『日本の学問』（日本放送出版協会）1968年
『元禄文化』（文英堂）1970年
『歴史教育の歴史と社会科』（歴史教育者協議会）2003年

また、多くの編著にも携わっています。

『日本史講座　第1巻　歴史理論篇』（河出書房）1952年
『明治文学全集　明治史論集(1)(2)』（筑摩書房）1965年
『現代日本思想大系　マルキシズム1』（筑摩書房）1966年（内田義彦・大塚久雄と共編）
『進歩と革命の思想　日本編』（新日本出版社）1978年
『元号問題の本質』（白石書店）1979年（永原慶二と共編）
『日本教育史年表』（三省堂）1990年（伊ケ崎暁生と共編）
『「自由主義史観」の病理』（大月書店）1997年（城丸章夫と共編）
『歴史教育五〇年のあゆみと課題』（未來社）1997年（歴史教育者協議会編）

松島栄一は、激動の昭和・平成を生きた歴史学者として、研究のみならず、戦後の歴史学会の形成や歴史教育のあり方についても大きな足跡を残しました。

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