松平義建

松平義建（まつだいら よしたつ）

松平義建は、江戸時代後期に美濃国高須藩を治めた第10代藩主です。通称を範次郎といい、官位は従四位下・侍従、掃部頭、摂津守、左少将を歴任しました。自身が藩主として特筆すべき治績を遺したという記録は少ないですが、彼の息子たちは幕末という激動の時代に重要な役割を果たしました。特に有名なのが「高須四兄弟」と呼ばれる次男の徳川慶勝、五男の徳川茂徳（茂栄）、七男の松平容保、八男の松平定敬です。また、現在の徳川宗家は義建の男系子孫にあたります。

生涯

寛政11年12月13日（1800年1月7日）、松平義和（保友）の次男として江戸の水戸藩小石川邸で誕生しました。父の義和は当時水戸徳川家の部屋住みでしたが、文化元年（1804年）に高須松平家の末期養子となり、高須藩を相続しました。兄の義質が早世したため、文化10年（1813年）に父の嫡子となりました。

文化12年（1815年）には11代将軍・徳川家斉に御目見えし、文化13年（1816年）には従四位下侍従・掃部頭に叙任されました。文政年中に摂津守に改め、天保3年（1832年）に父の死去により家督を相続。同年には左少将に任官しました。嘉永3年（1850年）に隠居し、五男の義比（後の徳川茂徳）に家督を譲り、文久2年（1862年）に64歳で生涯を閉じました。

人物・子女

高須松平家は参勤交代を免除された定府の大名家であったため、義建自身は藩領内で生活することはありませんでした。しかし、生前に2度国入りし、お忍びで長良川の鵜飼を見学したり、領民と交流したりした記録が残っています。菩提寺である行基寺の記録によると、弘化4年（1847年）の滞在時には松茸狩りを催し、側室とみられる女性たちも参加したことが記されています。これは、当時の大名家の女性としては異例のことでした。

海津市歴史民俗資料館学芸員の水谷容子氏は、義建を「フランクな人柄だったのでは」と推測しています。歴史学者の磯田道史氏は、高須四兄弟の活躍と関連付け、当時の高須松平家を「女性の自由度が高く、家族が野外で生き生きと過ごす時間があった」と評し、人材を輩出した高須松平家の子育ての雰囲気を指摘しました。

高須四兄弟

松平義建の子息たちは、その多くが養子となって他家を継ぎました。これは高須松平家が尾張徳川家の御連枝として格式が高く、子女の教育水準も高かったためと考えられます。中でも、次男の慶勝、五男の茂徳（茂栄）、七男の容保、八男の定敬の4人は「高須四兄弟」として特に知られています。

戊辰戦争では、尾張藩主となった慶勝は新政府側につき、会津藩主の容保と桑名藩主の定敬は幕府側につきました。また、一橋家を継いだ茂栄は徳川家の代表として新政府と交渉するなど、高須四兄弟はそれぞれが異なる立場から幕末の動乱に関わりました。

系譜

太字は高須四兄弟

父：松平義和
母：平松氏
正室：規姫 - 真証院、徳川治紀五女
次男：徳川慶勝（1824-1883） - 徳川慶臧の養子
三男：松平武成（1825-1847） - 松平武揚の養子
四男：松平整三郎（1826-?） - 夭折
側室：尾崎氏
五男：徳川茂徳（1831-1884） - 高須藩主（義比）→尾張藩主（茂徳）→徳川慶勝の養子（茂栄）
側室：古森氏
七男：松平容保（1836-1893） - 松平容敬の養子
側室（奥山氏（『御家続帳』）、今西亀（『海津町史』）等の説あり）
八男：松平定敬（1847-1908） - 松平定猷の婿養子
室：千代 - 小森氏
十男：松平義勇（1859-1891）
生母不明の子女
長男：松平源之助（1820-?） - 夭折
四男：松平整三郎（1826-?） - 夭折
六男：某 - 戊辰戦争で切腹
九男：松平鐡丸（1849-?） - 夭折
女子：幸 - 上杉茂憲正室

現在の徳川宗家当主である徳川家広は、義建の男系子孫にあたります。

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