松本日之春

松本日之春 - Hinoharu Matsumoto

日本の作曲家、松本日之春（まつもと ひのはる、1945年11月3日 - 2023年3月2日）は、音楽一家に生まれた人物です。父は同じく作曲家の松本民之助、弟も作曲家の松本清という環境で育ちました。その生涯を通じて、教育者としても数多くの音楽家を育て上げ、多岐にわたるジャンルで優れた作品を世に送り出しました。

経歴

松本氏の音楽の道は、1968年に東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業することから本格的に始まりました。さらに研鑽を積むため、1970年には同大学大学院作曲科を修了しています。東京藝術大学では、池内友次郎、三善晃、島岡譲といった日本を代表する作曲家たちから薫陶を受けました。早くからその才能は認められ、学生時代には1968年の毎日音楽コンクールに入賞。さらに、1969年には世界的な権威を持つエリザベート国際音楽コンクールでも入賞を果たし、国際的な舞台でも注目を集めました。

大学院修了と同年の1970年、松本氏はフランス政府給費留学生として渡仏し、パリ音楽院に入学します。ここではアンドレ・ジョリヴェ、イヴォ・マレク、ミシェル・フィリポーら、当時のフランス音楽界を牽引する作曲家たちに師事しました。この留学経験は、彼の音楽性に大きな影響を与えたと考えられます。パリ音楽院では目覚ましい成果を上げ、1975年には作曲科および電子音楽科の両方を首席で卒業するという快挙を成し遂げました。これは、彼の作曲における確かな技術と、電子音楽を含む新しい音楽表現への深い理解を示すものです。

教育活動

帰国後、松本氏は教育者としても精力的に活動しました。フェリス女学院大学音楽学部教授、京都市立芸術大学音楽学部音楽学科および大学院音楽研究科作曲専攻教授、茨城大学特任教授など、様々な大学で教鞭を執り、後進の育成に尽力しました。彼の薫陶を受けた弟子の中には、酒井健治や山根明季子といった、現在第一線で活躍する作曲家たちがいます。教育者としての貢献も、日本の現代音楽界にとって非常に大きいものでした。

主な作品

松本氏の作品は、管弦楽、舞台作品、室内楽、合唱、歌曲など、幅広いジャンルに及びます。特に管弦楽作品では、国内外の著名な団体からの委嘱を受けています。

管弦楽作品
《レ・レオニード》：民音現代音楽祭のために委嘱されたオーケストラ作品です。
京都市立芸術大学オーケストラのための作品：《フェスタ》、《むかしむかし…》、《夢のまた夢》などがあります。これらは教育機関における実践的な創作・演奏活動を重視する彼の姿勢を示すものです。
京都市交響楽団からの委嘱作品：《いにしえの夢のほとりにて》があります。

舞台作品
室内オペラ《幸福の王子》：オスカー・ワイルドの有名な童話に基づいたこの作品は、「20世紀の吟遊詩人」という団体によって自主製作されました。小編成ながらも物語性の豊かな作品を手がける彼の才能が垣間見えます。

室内楽・ピアノ曲
1996年に作曲されたピアノ曲《逝く夏に》などが知られています。

合唱曲
カンタータ《デメテルとペルセポネ》：ギリシャ神話の有名な物語に基づいています。
《レクイエム・ルネッサンス》（2011年）：東日本大震災の犠牲者を追悼するために作曲された、ヴォカリーズによる合唱と弦楽合奏のための作品です。
《復活のパッサカリア》（2012年）：同じくヴォカリーズの合唱と管弦楽のための作品で、震災からの復興への願いが込められていると考えられます。

歌曲・声楽曲
1996年には、新藤涼子の詩による《ソプラノのための五つの歌》、高野喜久雄の詩による《あなたに》、吉野弘の詩による《雪の日に》を発表しています。
* 1997年には《音を支える》という作品も発表されています。これらの作品は、声と楽器が織りなす繊細な響きによって、詩の世界を深く表現しています。

晩年

松本日之春氏は、日本の現代音楽界において、作曲家としてのみならず、教育者としても大きな足跡を残しました。日本とフランス、双方の音楽教育を受けた経験を生かし、多くの若い才能を育てました。2023年3月2日、惜しまれながら急逝しましたが、彼の残した多様な作品群と、育成した多くの弟子たちは、今後も日本の音楽界において重要な存在であり続けるでしょう。彼の音楽は、アカデミックな素養に裏打ちされつつも、人間の感情や物語、あるいは社会的な出来事にも深く向き合ったものと言えます。

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