松浦信正 (河内守)

松浦信正について

松浦信正（まつら のぶまさ）は、江戸時代中期の幕臣であり、その多岐にわたる役職歴と長崎貿易改革への貢献で知られています。彼は、駿府町奉行、大坂町奉行、勘定奉行、長崎奉行という重要な役職を歴任し、幕府の財政と貿易政策に深く関与しました。しかし、その功績とは裏腹に、用行組事件に関連して失脚するという波乱に満ちた生涯を送りました。

生い立ちと初期の経歴

松浦信正は、元禄元年（1688年）または元禄8年（1695年）、あるいは元禄9年（1696年）に、松浦市左衛門信正の三男として生まれました。その後、従兄である松浦信守の養子となり、宝永元年（1704年）に信守が亡くなると、その跡を継いで寄合となりました。その後、書院番、進物役を歴任し、着実にキャリアを積んでいきました。徳川吉宗の信任を得て、足高の制のもと、西城徒頭、目付を経て、元文2年（1737年）には駿府町奉行に昇進しました。

主要な役職と業績

信正のキャリアの中で特に重要なのは、大坂町奉行、勘定奉行、そして長崎奉行としての業績です。元文5年（1740年）には大久保主水の推薦により大坂東町奉行となり、従五位下河内守に叙任されました。延享3年（1746年）には勘定奉行となり、寛延元年（1748年）には長崎奉行を兼任しました。長崎奉行就任にあたっては、当初、漢文の能力がないことを理由に辞退しましたが、吉宗の命により、仮名での文書作成を許可され、職務を全うすることになりました。

長崎貿易改革

長崎奉行としての信正の最大の功績は、長崎貿易改革です。当時、長崎の貿易は長崎会所と長崎町年寄・地下役人による二重行政が行われており、貿易の利益が町年寄らに偏り、輸出用銅の不足や唐船の滞留などの問題が生じていました。信正は、これらの問題を解決するために、町年寄らの貿易権益を吸収し、経費を削減する改革を実行しました。具体的には、改革協力者を集めて商売方会所（用行組）を組織し、長崎会所の実務、地下役人の監視、唐人貿易の交渉などを担当させました。また、過去の勘定書を整理し、年度別・奉行在勤別に作成することで取引全体の収支を把握できるようにしました。さらに、町年寄末席などの役職を廃止し、貿易事務を会所の管轄下に置くことで、長崎貿易の権限を会所に集約させました。

これらの改革により、長崎会所は財政を立て直し、幕府からの借金を完済することができました。

笘屋久五郎一件

大坂町奉行時代には、「笘屋久五郎一件」と呼ばれる事件の解決に手腕を発揮しました。この事件は、両替商笘屋久五郎が500両を盗まれた事件で、手代の忠七が疑われましたが、拷問にも屈せず罪を認めませんでした。信正は、笘屋一家に証文を提出させ、忠七を斬首すると見せかけて、実は忠七を密かに保護していました。その後、真犯人が捕まり忠七の無実が証明されたため、信正は笘屋一家を戒め、忠七に保養金を支払わせました。この事件は、信正の冷静な判断力と公正な裁きを示すエピソードとして知られています。

失脚と晩年

宝暦2年（1752年）、信正は長崎奉行を辞任し、勘定奉行加役として長崎掛の役職を与えられましたが、用行組の専横が問題となり、宝暦3年（1753年）に収賄事件に関与したとして失脚しました。この事件をきっかけに、用行組の不正が次々と明らかになり、関係者が処罰されました。信正自身も小普請に降格され、閉門処分となりました。宝暦10年（1760年）に致仕し、可謙と号して下小合村に隠居し、明和6年（1769年）に亡くなりました。

文化財

信正は、信仰心も篤く、菩提寺として信正院を建立しました。しかし、信正院は明治時代の廃仏毀釈の影響で廃寺となり、奉納品は近隣の瑞正寺などに移されました。現在、瑞正寺には、信正が奉納した十一面観世音菩薩像や松浦河内守木像などが安置されています。また、江戸川区指定有形文化財である「松浦信正関係資料」や、葛飾区指定有形文化財である「松浦の鐘」などが現存しており、彼の足跡を今に伝えています。

まとめ

松浦信正は、江戸時代中期の幕臣として、財政と貿易政策に大きく貢献した人物です。長崎貿易改革をはじめとするその業績は、高く評価されるべきですが、用行組事件という不運な出来事によって失脚したことは、非常に残念です。しかし、彼の生涯は、江戸時代の政治や社会を理解する上で重要な資料となっています。

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