松田重次郎

松田重次郎：マツダの礎を築いた技術者、実業家

松田重次郎（まつだ じゅうじろう、1875年8月6日 - 1952年3月9日）は、日本のエンジニア、実業家であり、マツダの事実上の創業者として知られています。彼は、貨物自動車（トラック）の生産に尽力し、その技術力と経営手腕で、後のマツダの発展の基礎を築きました。

生い立ちと技術者としての歩み

1875年、松田重次郎は広島県安芸郡仁保島村向洋（現在の広島市南区向洋）で12人兄弟の末っ子として生まれました。学校教育を受ける機会には恵まれませんでしたが、13歳で大阪に出て鍛冶屋で修行し、機械製作の技術を習得しました。その後、呉や佐世保の海軍工廠で造船技術者として勤務し、その技術力を磨きました。

1906年、松田は自身の発明である「松田式ポンプ」を製造・販売する松田製作所（後の大阪機工、現・ニデックオーケーケー）を設立し、実業家としての第一歩を踏み出しました。その後も大阪で鉄工所を経営するなど、事業家として活躍しました。この大阪時代には、長男の松田恒次も誕生しています。

東洋コルク工業（後の東洋工業、現マツダ）へ

1921年、松田は経営方針の違いからポンプ会社を去り、故郷の広島に戻り、前年に創業された東洋コルク工業株式会社の社長に就任しました。彼はこの会社で30年もの長きにわたり社長を務め、会社の発展に尽力しました。

1927年には、社名を東洋工業株式会社に変更しました。この頃から、松田は自動車製造への関心を深め、1931年には安芸郡府中村（現在の府中町）の工場で三輪トラック（オート三輪）の生産を開始しました。この三輪トラックには、自身の姓とゾロアスター教の神であるアフラ・マズダーの名前を組み合わせた「MAZDA号」と名付け、これがマツダブランドの始まりとなりました。当時、販売は三菱商事が担当していました。

さらに、軍部から九九式短小銃の生産を請け負ったことで、東洋工業は事業規模を大きく拡大させました。

原爆投下と復興への貢献

1945年8月6日、70歳の誕生日を迎えたその日、広島市への原子爆弾投下により甚大な被害が発生しました。当時、松田は爆心地から離れた場所にいたため難を逃れましたが、市内中心部にあった彼の邸宅は被爆し、中国地方総監であった大塚惟精は被爆死しました。

東洋工業は多くの社員を失いましたが、幸いにも工場は大きな損害を免れました。松田は、復興のため、府中工場の敷地内に広島県庁舎の移転を認め、全機関が業務を再開することができました。NHK広島放送局も、同社の敷地内で放送を再開するなど、広島の復興に大きく貢献しました。

戦後の活動と晩年

終戦後、東洋工業は軍需品の生産を停止し、民生用トラックなどの生産を再開しました。松田は公職追放を免れ、引き続き東洋工業の社長として、広島の復興を牽引しました。また、1950年にはプロ野球球団・広島カープ設立の際、広島県や広島市、他の広島県内企業と共に出資を行いました。

1951年12月、松田は社長の座を長男の恒次に譲り、自らは会長となりました。翌1952年3月9日、広島市内の自宅にて76歳でその生涯を閉じました。

松田重次郎の死後

松田重次郎の死後、長男の恒次は東洋工業の発展に尽力し、乗用車部門への進出を成功させました。1966年には、重次郎の故郷である仁保島の南側が干拓され、東洋工業の乗用車専門工場が完成しました。これにより、東洋工業はトラックと乗用車の両方を生産する世界有数の総合自動車メーカーとしての地位を確立しました。

特に、ロータリーエンジンの開発に世界で初めて成功したことは、松田重次郎社長時代から培われた高い技術水準の証明となりました。その後、松田家の経営からは離れましたが、マツダは松田重次郎を事実上の創業者として扱い、敬意を表しています。

現在、広島市南区の比治山公園には、松田重次郎のブロンズ像が展示されており、その功績を今に伝えています。

松田重次郎の遺産

松田重次郎は、技術者としての優れた才能と実業家としての手腕を発揮し、マツダの礎を築きました。彼の技術への情熱と革新的な精神は、今日のマツダにも受け継がれており、自動車産業の発展に大きく貢献しています。また、広島の復興に尽力した彼の功績は、地元の人々からも深く尊敬されています。

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