林玄仲

林玄仲

林玄仲（はやし げんちゅう）は、江戸時代後期に医師として、明治時代には度会府の役人として活躍した人物です。寛政7年（1795年）に志摩国答志郡穴川村（現在の三重県志摩市磯部町穴川）で生まれ、幼名を大形半次郎といいました。彼は誠実で質素な生活を送りながらも、巨額の富を築き、その財を地域社会のために役立てました。

生い立ちと医学への道

半次郎は、佐美長神社への祈願によって授かった子で、幼い頃から孝行息子として両親を手伝い農作業に励んでいました。17歳になると医学を志し、江戸へ上ります。そこで伊予国今治藩の侍医である林玄曠と出会い、その養子となり、林玄仲と名を改めました。字は忍種杏園です。この時、玄仲は100石30人扶持という身分を得ました。

奥医師としての活躍

天保9年（1838年）には、玄仲は江戸幕府の奥医師となり、多くの大名から信頼を得るようになりました。奥医師時代には御柳と結婚し、麹町三丁目に住んでいた時期もあります。自宅近くの坂道を石畳で舗装し、雨天時でも通行しやすくしたことから、その坂は「玄仲坂」と呼ばれるようになりました。

役人としての活動

幕末に奥医師を辞した後、玄仲は伊勢国山田（現在の三重県伊勢市）へ移り住みました。そこで度会府知事の橋本実梁に請われ、度会府・度会県の役人として府政・県政に携わることになります。役人時代も、玄仲の自宅には治療を求める患者が後を絶たなかったと言われています。

永代義倉講金の創設

老後は故郷の穴川村に戻り、地域の子供たちの教育と郷土の発展に尽力しました。特に慶応元年（1865年）には、私財750両を投じて「永代義倉講金」を創設しました。これは、村に預金することで発生する利子を使って雑穀類を買い、村人が困窮した際に救済するためのものでした。この恩恵は、志摩国の磯部、加茂、神明、立神にまで及びました。その後、明治9年（1876年）には、さらに250両を追加して1000両に増額しました。

晩年と死

明治10年（1877年）、玄仲は息子の住む大阪に移り、老齢のため病に倒れ、翌明治11年（1878年）にその生涯を閉じました。彼の死後も、彼の遺徳は語り継がれ、地域の人々に敬愛されています。

人物像

玄仲は、粗衣粗食を心がけ、食事は米を半分搗いた「半搗米」を好んで食べていました。また、質素な生活を徹底しており、来客をもてなすための膳や椀、茶器すら持っていなかったと伝えられています。

墓所と供養

玄仲の墓は、志摩市磯部町穴川の共同墓地にあります。墓碑には「齢仙院玄仲居士」と刻まれ、副碑には「南無妙法蓮華経」と「南無阿弥陀仏」が記されています。毎年8月15日には、安心寺にて玄仲の追善供養のための施餓鬼が行われています。

頌徳碑

志摩市立磯部小学校の正門前には、林玄仲翁頌徳碑が建立されています。この碑は、玄仲の功績を称え、後世に伝えるために建てられました。当初は別の場所にあったものが、志摩電気鉄道の建設に伴い、現在の場所に移されました。

まとめ

林玄仲は、医師としての才能だけでなく、役人としても地域に貢献し、さらに私財を投じて多くの人々を救済しました。彼の質素で誠実な生き方は、現代においても模範とすべきものでしょう。特に「永代義倉講金」の創設は、彼の地域社会への深い愛情と責任感を示すものとして、後世に語り継がれるべき偉業です。

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