佐美長神社

佐美長神社と佐美長御前神社について

佐美長神社（さみながじんじゃ）は、三重県志摩市磯部町に位置し、伊勢神宮の別宮である伊雑宮の所管社です。この神社は、同じ境内に鎮座する佐美長御前神社（さみながみまえじんじゃ）と共に、古くから地域住民に信仰されてきました。本記事では、これらの神社の概要、歴史、祭神、境内、信仰、そして関連する伝承について詳しく解説します。

概要

佐美長神社は、標高約10mの小高い丘の上に鎮座しています。この場所は、かつて海面下であったとする説と、古くから神聖な場所であったとする説があります。伊雑宮からは約800m離れており、両神社を結ぶ道は「御幸道」と呼ばれ、神が往来したと伝えられています。

佐美長神社は、かつては内宮の末社とされていましたが、現在は伊雑宮の所管社として扱われています。伊雑宮の所管社の中で最も重要な位置を占めています。

境内

佐美長神社の社殿は神明造で、板葺き屋根を持ち、高欄と御階が設けられています。特徴的なのは、伊勢神宮の神社としては珍しく東向きに建てられている点です。このため、式年遷宮ごとに社殿が南北に移動するという特異な構造をしています。東向きの理由は、東にある伊雑ノ浦を意識したためと言われています。また、伊勢神宮の関連神社では珍しく、賽銭箱が設置されています。

鳥居は三重県道61号線沿いにあり、そこから36段の石段を上ると社殿にたどり着きます。この石段は、1段を1旬とし、36段で1年を表すという説があります。神社の麓には磯部川の分流が流れ、手水舎の水源となっています。

江戸時代には、現在と同じ規模の社地に、佐美長神社の末社である瑞樹社、神楽殿、秋津社、宿衛所がありました。しかし、瑞樹社と秋津社は明治時代に磯部神社に合祀され、佐美長神社の境内を離れました。

社名

佐美長神社は、明治4年（1871年/1872年）に現在の社名に改められるまで、大歳宮、穂落宮、飯井高宮、神織田御子神社など、様々な名前で呼ばれていました。これらの社名の中には、『先代旧事本紀大成経』という偽書が提唱したと考えられるものも含まれています。佐美長神社の初出は『皇太神宮儀式帳』であり、そこでは「佐美良神社」と記されています。式内社としての社名は「同島坐神乎多乃御子神社」です。

地元では、現在でも大歳社、穂落社、穂落としさんなどの通称で親しまれています。

祭神

佐美長神社の祭神は、大歳神（おおとしのかみ）です。大歳神は、穂落伝承に登場する真名鶴であるとする説や、スサノオの子、伊佐波登美神またはその子、穀物の神など、様々な説があります。また、「大歳」という名の由来は、「穂落」が転じたとする説や、鶴が長寿の象徴であることから「多き年」が転じたとする説があります。また、『宇治山田市史』では、佐美長神社の祭神を「神乎多乃御子神」としています。

信仰

地域住民は佐美長神社を「穂落としさん」と呼び、稲の豊穣や病害虫駆除を祈願する人が多くいます。また、地主神として地鎮や方位除の信仰もあります。江戸時代の医師、林玄仲の両親は、佐美長神社で子授けを祈願したと伝えられています。

一部の住民は、佐美長神社を伊雑宮の外宮であると考えており、「神体は岩石で、そこに付着した藻が潮の満ち引きに合わせて動く」という口伝が残っています。また、地元の小学校の校歌にも佐美長神社が登場するなど、地域住民に深く根付いた神社です。

佐美長御前神社

佐美長御前神社は、4つの社から構成されており、伊雑宮の所管社の中で2番目から5番目の地位にあります。佐美長神社に向かって左側、南向きに並んでおり、いずれも神明造の板葺きです。祭神は、佐美長御前神（さみながみまえのかみ）とされていますが、伊佐波登美神の子孫の霊を祀るとする説や、祭神不明とする説もあります。古くは「地主神五社」や「月読宮・熊野遥拝社・子易ノ社」とも呼ばれていました。

歴史

佐美長神社の境内地からは、縄文時代から古墳時代にかけての遺物が出土しており、特に弥生時代後期から古墳時代初期の土器が多く見つかっています。『倭姫命世記』によれば、佐美長神社の創建は垂仁天皇27年9月とされています。また、『延喜式神名帳』に記載されている「同島坐神乎多乃御子神社」に比定されています。

平安時代以前から伊雑宮の付属社であったと考えられており、『皇太神宮儀式帳』には佐美長神社の祭儀は伊雑宮に従って行うと記されています。同書には、佐美長御前神社の存在も示唆されていますが、創建時期は不明です。

中世には内宮庁が祝職を任命していましたが、中世末期以降は内宮の統制が弱まり、社殿が内宮を模した形に変わっていきました。

穂落伝承

穂落伝承は、佐美長神社の創建にまつわる伝承で、『倭姫命世記』に記されています。この伝承によれば、大歳神の化身である鶴が、稲の穂を落とした場所に神社が創建されたとされています。この伝承は、朝熊神社の大歳神を強引に結び付けたものとする批判や、地域を治めた磯部氏が稲作の神として創祀したという説もあります。

近世

江戸時代には、内人と呼ばれる祝職が任命されていましたが、寛文2年（1662年）の伊雑宮の遷宮の際、社殿が小さく建て替えられたことに不満を持った神官らが直訴運動を起こしました。この「寛文事件」により、大歳神社の祝職は内宮から正式に任じられることがなくなり、私称の神職が祭祀を行うようになりました。また、神楽所が設置され、神楽職人が任命されました。

近代以降

明治4年（1871年）の神宮職制改革により、私称の神職と神楽職人の職は廃止され、伊雑宮の神職が祭祀を務めるようになりました。同年、正式に「佐美長神社」と定められました。大歳末社とされた秋津神社と瑞樹神社は磯部神社に合祀されました。

佐美長神社と佐美長御前神社は、明治から昭和にかけて建て替えられ、太平洋戦争中には、小学校の児童が佐美長神社で授業を受けることもありました。伊勢湾台風では、境内の巨木が倒れる被害を受けましたが、その後復旧されました。近年では、式年遷宮が実施され、テレビ番組でも紹介されています。

祭祀と遷宮

佐美長神社の祭祀は、平安時代から中世まで、伊雑宮の付属社として神嘗祭や月次祭、式年遷宮が行われていました。中世以降は、地元住民によって社殿の建て替えが行われるようになりました。「寛文事件」以降、佐美長神社は公営、佐美長御前神社は私営による建て替えに移行しました。明治以降は、神宮司庁や造神宮使庁が式年遷宮を受け持つようになりました。

室町時代から江戸時代には神楽殿があり、猿田彦大神を祀り、年間36回の神楽が奉納されていました。

交通

近鉄志摩線志摩磯部駅から徒歩約16分、三重交通バス「磯部小学校前」バス停から徒歩約1分です。国道167号線から三重県道61号線を経由し、車で約1分です。駐車場は、付近の鳥羽志勢広域連合の駐車場が利用できます。

まとめ

佐美長神社と佐美長御前神社は、その歴史、伝承、地域住民との結びつきにおいて、非常に重要な神社です。その独特な構造や祭祀は、伊勢神宮の歴史や文化を理解する上で欠かせない要素であり、訪れる人々に深い感銘を与え続けています。

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