栃剣展秀

栃剣 展秀（とちつるぎ のぶひで）

1955年4月26日、愛知県名古屋市昭和区に生まれた栃剣展秀は、春日野部屋に所属した元大相撲力士です。本名は平野展秀。身長171cm、体重116kgと小柄ながら、最高位は西前頭2枚目まで昇りつめました。得意技は突き、押し、そして代名詞ともいえる蹴返し。血液型はAB型です。

生い立ちと入門

小学校6年生の時、熱田神宮の少年相撲大会で優勝したことがきっかけで、中京中学校相撲部の監督に見出され、相撲の道へ進みました。当初は野球少年でしたが、「相撲部ならレギュラーになれるかもしれない」と考えたのが相撲部入りの理由でした。中京高校でも相撲を続け、1973年には国民体育大会の少年Aの部で個人優勝を果たすなど、その実力を発揮しました。

高校卒業を前に、春日野部屋の清見潟親方（元前頭・栃王山）から「大学へ行ったつもりで4年間やってみろ」と誘われ、春日野部屋に入門。1973年11月場所、18歳で初土俵を踏みました。同期には、後の小結・大豊がいます。初土俵時の四股名は本名の「平野」でした。

入門当時、身長は168cmと新弟子検査の基準である170cmに満たなかったものの、なぜか172cmとして合格しました。多くの大学から勧誘を受けていたため、進路を決めかねていたことも大相撲入りを決意した理由の一つでした。

十両昇進と幕内での活躍

1978年7月場所、23歳で新十両に昇進。この時、四股名を「栃剣」と改めました。十両時代には、右アキレス腱を断裂しながらも休場せず、テーピングで足首を固めて出場を続けるなど、その強靭な精神力を示しました。十両と幕下を往復する時期もありましたが、高校の後輩である栃司の活躍に刺激され、1982年3月場所、26歳で新入幕を果たしました。

若手時代から、小兵であることを自覚し、「他の力士が5時に起きるなら、3時に起きて稽古する」というほど稽古熱心でした。序ノ口から廃業まで、一日も稽古を休むことはありませんでした。その結果、1987年5月場所まで、計28場所幕内を務め上げました。

土俵際で両手を着いてからの低い立ち合いからの左右のおっつけや、前褌を取っての出し投げ、そして得意の蹴返しなど、多彩な技で土俵を動き回る取り口は、多くのファンを魅了しました。特に1985年11月場所で、体重が倍以上ある小錦を破った一番は、その蹴返しが炸裂したことで、場内を沸かせました。この一番以降、蹴返しを得意とする力士は少なくなり、栃剣の代名詞となっています。

引退後と現在

引退後は年寄として協会に残る意向でしたが、貯蓄がなかったため年寄名跡を取得できず、1989年3月場所を最後に33歳で廃業しました。怪我に強く、序ノ口から廃業まで無休で土俵に上がり続けたことは特筆すべきでしょう。現役最後の一番も、得意の蹴返しで勝利しました。

引退後は千葉市内で相撲料理店を経営しましたが、失敗して閉店。その後、ゲーム喫茶に勤務していた1997年11月には賭博行為で逮捕されました。現在は、愛知県春日井市内にある株式会社大島工作所に勤務し、機械部品を県内の工場に配送する業務を行う傍ら、毎週日曜日に相撲教室で小学生を指導しています。

エピソード

栃剣と同じ春日野部屋出身の栃翼は、「栃剣さんにあやかりたい」と考え、似た四股名にしたという説があります。
入門後、ある後援者に「早く辞めなさい。お前のようなチビは関取になれない」と忠告されたことが悔しくて精進したと語っています。
廃業から約15年後の2005年、一人暮らしをしていた先輩が亡くなった部屋の片付けを、死臭が残る中で一日中手伝ったというエピソードも残っています。
ちばてつやの漫画『のたり松太郎』に登場する力士・駒田中こと「田中清」のモデルとされています。

主な成績・記録

現役在位：92場所
通算成績：507勝529敗 勝率.489
幕内在位：28場所
幕内成績：186勝234敗 勝率.443
連続出場：1036回（序ノ口以来無休、1974年1月場所-1989年3月場所）
三賞：1回 (技能賞：1983年9月場所)
序ノ口優勝：1回（1974年1月場所）

改名歴

平野 展秀（ひらの のぶひで、1974年1月場所-1978年5月場所）
* 栃剣 展秀（とちつるぎ のぶひで、1978年7月場所-1989年3月場所）

栃剣展秀は、小柄ながらもその持ち前の技術と不屈の精神で、大相撲の世界で輝きを放った力士でした。

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