梅澤捨次郎

梅澤 捨次郎

梅澤 捨次郎（うめざわ すてじろう）は、1890年（明治23年）12月1日に石川県で生まれ、1958年（昭和33年）4月29日に亡くなった建築家です。特に日本統治時代の台湾で数多くの公共建築物の設計を手がけ、彼が設計した建物の中には、現在も文化財として大切に保存・活用されているものが少なくありません。近年活躍するアニメーション作家、吉浦康裕氏は彼の曾祖父にあたります。

生涯とキャリア

石川県石川郡鶴来町（現在の白山市）の士族の家庭に生まれた梅澤は、当初秋田姓でしたが後に梅澤姓となります。本籍地は金沢市広阪通でした。

1907年（明治40年）に県庁の測量人員として働き始めますが、翌年にはこれを辞し、東京の私立工手学校（現在の工学院大学）建築科に入学します。この頃、並行して大日本帝国陸軍の陸地測量部地形科でも職員として勤務しました。

学校卒業後の1911年（明治44年）10月、台湾へと渡航し、台湾総督府土木部営繕課に配属されます。総督府技手として、民政部土木局営繕課を皮切りに、台北高等商業学校の新築工事主任や、昭和天皇が皇太子時代に行われた台湾行啓の奉迎準備に関わるなど、様々な役職を歴任しました。また、交通局鉄道部技手を兼任した時期もあります。

1930年（昭和5年）からは台南州地方技師として内務部土木課に勤務し、この時期には台湾建築会台南州支部長も兼任しています。台南在任中には、現在の台南市美術館1館となっている台南警察署庁舎や、林百貨店として知られる末広町商店住宅などの設計を手がけました。

1934年（昭和9年）に台湾総督府専売局庶務課技師に転任し、各地の専売局施設の設計を担当しました。新竹、嘉義、松山など、台湾各地に彼の設計した専売局関連施設が建設されました。1942年（昭和17年）に依願退職する際、当時の台湾総督長谷川清により、その功績が称えられ、正五位叙位や奨金などが贈られています。

戦後も台湾にしばらく留まりますが、健康上の理由から1955年（昭和30年）に帰国。台湾からの再度の招聘もあったものの、病状が悪化し、1958年（昭和33年）に病没しました。

井手薫との関係

台湾総督府営繕課長として、高等法院（現在の司法院司法大廈）などを設計した井手薫は、梅澤の上司でした。井手は台湾建築会会長でもあり、単なる上司・部下という関係にとどまらず、末広町商店住宅の技術協力や台南警察署の技術顧問を務めるなど、梅澤とは非常に親密な関係を築いていました。

主な建築作品

梅澤は、当時の台湾における若手登用の機会を活かし、総督府所属の初期から多くの政府建築に関与しました。中期以降は民間建築にも携わっています。アール・デコ様式を取り入れた彼の建築は、戦後も長く残され、多くが文化資産として活用されています。

主な設計・関与した建築物には以下があります。

台北高等商業学校（1922年）- 現・国立台湾大学法学院・社会学院など。
台中師範学校本館（1923年）- 現・国立台中教育大学。
台南警察署（1931年）- 現・台南市美術館1館。
台南末廣町商店兼住宅（1932年）
商店部分：ハヤシ百貨店（林百貨）。
住宅部分：現・兜空間 Dou Maison。
台湾総督府専売局新竹支局（1935年）- 現・新竹専売局。
台湾総督府専売局嘉義支局（1937年）- 現・嘉義市立美術館。
台湾総督府専売局松山煙草工場（1939年）- 現・松山文化創意園区。
総督府台中医院第二病棟（1940年）- 現・衛生福利部台中医院。

その他、台北帝国大学研究庁や専売局花蓮港支局（現・花蓮文化創意産業園区）などの建設にも携わっています。

栄典

従六位勲六等
正五位（1934年）
勲五等瑞宝章（1936年）
勲四等瑞宝章（1941年）

梅澤捨次郎が台湾に残した建築遺産は、現在も多くの人々に利用され、その歴史的な価値を伝えています。曾孫である吉浦康裕氏も、自身のアニメ作品に台南の建築、特にハヤシ百貨店などから影響を受けていることを語っています。

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