梵浄山

梵浄山：自然と信仰が織りなす聖地

梵浄山（ぼんじょうさん、Fanjingshan）は、中国貴州省に位置する、少数民族が多く暮らす地域にそびえ立つ変成岩の山です。周辺のカルスト地形に浮かぶ島のような、独特な生物相が特徴で、貴州省銅仁市、印江県、江口県、松桃県の境界に位置しています。武陵山脈の主峰であり、最高峰の鳳凰山の標高は2,572mに達します。

多様な生態系を育む自然

モンスーン気候の影響を受ける梵浄山は、「貴州第一名山」「武陵第一峰」とも呼ばれ、豊かな原始林に覆われています。その生態系の価値は高く評価され、1986年にユネスコによって生物圏保護区に指定されました。さらに、2018年には世界自然遺産にも登録され、国際的にもその価値が認められています。

梵浄山には、ナガエブナ、テリハブナ、シナブナの3種類のブナ属からなる広大な原生林が広がっています。また、コケ植物、裸子植物、無脊椎動物など、多様な生物が生息しており、生物多様性の宝庫となっています。ハンカチノキ、ブレッシュネイデラ・シネンシス、チュウゴクオオサンショウウオ、オナガキジ、コビトジャコウジカ、ウンピョウ、ツキノワグマなど、第三紀からの生き残りである貴重な動植物も多く見られます。特に、ハイイロシシバナザル（キンシコウの一種）とモミ属のAbies fanjingshanensisは、梵浄山固有の種として知られています。

弥勒信仰の中心地

梵浄山は、中国の5A級観光地にも指定されており、特に中国十大仏教名山の一つとして、弥勒菩薩の聖地として有名です。明清の時代から、弥勒菩薩と梵浄山にまつわる伝説が、地元の人々の間で語り継がれてきました。山の頂にそびえ立つ金頂には、釈迦と弥勒菩薩を祀る両殿が建立されており、梵浄山の仏教信仰の象徴となっています。明代の「勅賜碑」には、「無辺法界、極楽天宮」という言葉で、弥勒菩薩と梵浄山の関係が記されています。明の万暦帝と清の康熙帝の時代には、梵浄山の名が与えられ、政府による保護も行われました。

梵浄山の新金頂や老金頂の周辺では、不思議な光と影が見られることがあり、古の人々はこれを弥勒菩薩の出現として崇めてきました。西路朝山古道にある「拝仏台」からは、梵浄山が三体の弥勒菩薩像に見えると言われています。新金頂は坐像の弥勒菩薩、老金頂はキンシコウが弥勒菩薩を崇める姿、そして山全体の峰を合わせると横たわった弥勒菩薩に見えるというのです。貴州省の著名な作家、張克は、数百里離れた印江県弥陀寺から梵浄山を眺めた際に、金頂に巨大な弥勒菩薩像が見えることに気づいたと語っています。

世界遺産としての価値

梵浄山は、その生物多様性の重要性と、絶滅危惧種の生息地としての価値が認められ、世界遺産（自然遺産）に登録されています。

登録基準：

(10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。

梵浄山は、その豊かな自然と深遠な信仰が融合した、他に類を見ない聖地です。その貴重な価値は、今後も大切に守り継がれていくことでしょう。

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