森山儀文治

森山儀文治：信州が生んだ偉大な弁護士、政治家

森山儀文治（もりやま ぎぶんじ）は、文久2年（1862年）に信濃国筑摩郡郷原宿（現在の長野県塩尻市広丘郷原）で生まれました。幼名は赤羽弥一の三男として育ち、生家の赤羽家は、地域の問屋場を営んでいました。後に郵便局の業務も兼ねるようになり、現在では郷原簡易郵便局としてその名残をとどめています。

1873年（明治11年）、森山惣七の養子となり、長野県師範学校を経て明治法律学校に進学。1883年（明治16年）には、21歳という若さで東京府の代言人試験に合格し、東京始審裁判所に所属しました。その後、故郷の松本に事務所を開設し、弁護士としてのキャリアをスタートさせました。

1893年（明治26年）に弁護士法が制定されると、正式に弁護士として登録。経済的に困窮した人々には無料で弁護を引き受け、多くの書生を育てるなど、社会貢献にも尽力しました。その中には後に弁護士となった者も多く、愛婿であり「文人気質の大弁護士」と評された小穴喜一もその一人です。森山は、松本弁護士会において大きな影響力を持つようになり、その存在は松本の象徴とも言えるほどでした。

森山の住居は、松本市片端町にあり、もともとは松本町初代町長を務めた菅谷司馬の屋敷でした。大正期の地図には「森山法律事務所」と記されています。現在、その跡地は松本市城東二丁目に位置し、神霊教松本教会付近となっています。

政治家としての森山は、立憲改進党系の流れをくみ、松本町会議員、東筑摩郡会議員、東筑摩郡会議長を歴任。1907年（明治40年）には、松本市制施行に伴い、初代松本市議会議員および初代松本市議会議長に就任。市議会議員は1921年（大正10年）まで務め、その間、1913年（大正2年）から1921年（大正10年）まで再度議長を務めました。松本市議会では、堅石由十の堅石派と森山派で二分されるほどの勢力を持っていました。また、1916年（大正5年）から1921年（大正10年）まで長野県議会議員も兼任し、県庁の松本移転運動や松本高等学校誘致に尽力しました。

1920年（大正9年）には、松本市が衆議院議員の独立選挙区になったことを受け、憲政会から衆議院議員に立候補。長野県第2選挙区で初当選を果たし、1期（4年）を務めました。衆議院議員としては、刑事訴訟法改正や陪審法制定に貢献しました。その後の選挙には立候補せず、後進に道を譲りました。

弁護士会においても、森山は重きをなし、1936年（昭和11年）に長野弁護士会が法人格を得た際には、初代会長に就任しました。これは、松本側の強い要望が受け入れられたもので、森山の弁護士会における影響力の大きさを物語っています。

森山の教育に対する情熱は深く、遺言書で葬儀を簡素化し、その費用を信濃教育会に寄付するよう指示しました。その信条は「人間はまず教育によって有為の人となることができる」というものでした。また、アマチュア囲碁界でも強豪棋士として知られ、1918年（大正7年）に刊行された「松本囲碁鑑」では東の大関に位置づけられています。

森山儀文治の墓は、松本市の正麟寺にあります。二男二女をもうけ、長男は弁護士の森山庸躬、長女は弁護士小穴喜一に嫁ぎました。孫には名古屋大学名誉教授の小穴進也がいます。また、婚外子もおり、その一人の森山淳哉は法曹界で活躍しました。弟の藤岡改造は、松本深志高校の国語教師として、また俳人・作家としても名を馳せました。

森山の人柄は非常に良く、多くの人々から慕われました。当時の中央の大家たちも、森山に対して敬意を払い、「先生」という敬称を用いていたといいます。松本区裁判所の監督判事であった臼田潔は、「法廷で品格ある、奥ゆかしい弁論は森山先生をおいて他に誰からも聞くことはできなかった」と述べています。大正末には大病を患ったものの奇跡的に回復したものの、体が弱く冬には裁判所に出てこなかったという逸話も残っています。

森山儀文治は、弁護士、政治家、教育者として、多岐にわたる分野で活躍し、信州の発展に大きく貢献しました。その功績は今もなお、多くの人々に語り継がれています。

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