小穴喜一

小穴喜一：弁護士、書家、そして文人

小穴喜一（おあな きいち、1881年6月26日 - 1953年6月18日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の弁護士であり、書家としても著名な人物です。号は雨堂。1907年に弁護士登録して以来、約46年もの間、法曹界で活動を続けました。

生い立ちと弁護士への道

1881年、長野県南安曇郡温村楡（現在の安曇野市三郷温）に、小穴善平とちよの次男として生を受けました。小穴家は、江戸時代の農民騒動である貞享騒動に関与した小穴善兵衛の末裔にあたります。若くして、松本の弁護士界の重鎮であり、親戚でもあった森山儀文治の書生となりました。

1901年、森山儀文治の支援を受けて上京し、明治法律学校（現在の明治大学）に入学。1904年に同大学法科を卒業しました。その後、1905年には判事検事登用試験に合格し、司法官試補（現在の司法修習生）となります。1907年に司法官試補の修習を終え、同年、長野地方裁判所検事局に弁護士登録しました。当初は森山儀文治の法律事務所に所属しましたが、後に独立し、同市南土井尻町に事務所を移転しました。この頃、森山の長女みどりと結婚し、これを機に「森山閥の一人」とみなされるようになりました。

弁護士としての活動と書道への情熱

弁護士としての小穴喜一は、銀行関係などの手堅い事件を多く扱い、その手腕を発揮しました。しかし、本人は「弁護士は金持ちの金庫番に過ぎない」と述べており、書道をはじめとする趣味の世界に情熱を注ぎました。

1914年には、小里頼永（松本市長、衆議院議員）、井口良一（画家）らと共に書道研究団体「文硯会」を設立し、書道の普及と発展に尽力しました。書家としては「雨堂」の号を用い、独自の書風を確立しました。その書は、時に「肥えた人は太い字を書き、痩せた人は痩せた字を書く」という持論を反映し、細身の字体で表現されました。大王わさび農場内にある初代深澤勇市の頌徳記念碑は、小穴喜一の筆によるものです。

多彩な趣味と文人としての側面

小穴喜一は、弁護士業の傍ら、書道以外にも多彩な趣味を持っていました。弓道、謡曲、易学、囲碁などにも造詣が深く、文人としての側面も持ち合わせていました。松本近郊の囲碁愛好家たちの番付では、行司の一人としてその名が記されています。また、中国に渡航して書の研究を行うなど、その探求心は幅広い分野に及んでいました。

直情径行な性格で、思ったことを率直に口にするタイプであったため、周囲からは誤解されることもありましたが、親しく付き合えば、話好きで親切な人物だったとされています。

晩年と遺産

1949年には、長野県弁護士会の初代会長に就任し、弁護士会の発展に大きく貢献しました。晩年は、胃癌を患い、名古屋大学医学部附属病院で治療を受けましたが、1953年6月18日に肝臓癌のため死去しました。享年71歳。葬儀は松本市の正麟寺で執り行われ、小穴家の墓は、先祖である小穴善兵衛の墓がある「いちょう堂」に移されました。

小穴喜一の旧宅は、その文人趣味を反映した和洋折衷の建築であり、美術全集や絵画が飾られていました。この旧宅は、松本市の近代遺産に登録され、2022年には国の登録有形文化財に指定されています。

また、彼の蒐集した書道関係の資料は、「小穴文庫」として松本市図書館に寄贈され、後世に受け継がれています。

家族

妻は森山儀文治の長女みどり。長男は名古屋大学名誉教授の小穴進也、次男の山彦は東京帝国大学で物理学を専攻しましたが、若くして病没しました。



小穴喜一は、弁護士としての卓越した能力に加え、書家、文人としての豊かな才能を発揮し、多方面で活躍した人物でした。彼の残した足跡は、現在も多くの人々に影響を与え続けています。

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