森本六爾

森本六爾（もりもと ろくじ）は、1903年（明治36年）に奈良県磯城郡織田村大泉（現在の桜井市）に生まれ、大正末期から昭和初期にかけて、日本の考古学界に短いながらも強烈な輝きを放った研究者です。彼は専門の教育機関で学んだ正規の考古学者ではありませんでしたが、その並外れた情熱と探求心から、後に「考古学の鬼」と称される存在となりました。

郷里の中学校を卒業後、小学校で代用教員を務めた森本は、1924年に上京。東京高等師範学校の校長であった歴史学者の三宅米吉のもとで副手として働く機会を得ます。この頃、彼は自ら「東京考古学会」を設立するなど、積極的に研究活動を展開し始めました。

森本六爾の研究姿勢は、徹底した現場主義にありました。彼は全国各地の遺跡に足を運び、出土品を並べて発掘時の状況を視覚的に再現した写真を撮ったり、地元の関係者から詳細な聞き取りを行ったりするなど、独自の調査手法を駆使しました。生涯に発表した論文は約200本にも及びます。

彼の主要な業績としては、甕棺（かめかん）の研究や銅鐸（どうたく）の型式分類の体系化が挙げられます。特に、弥生時代の開始時期について、稲作の開始をもって区分すべきであるという説を提唱したことは、当時の日本の考古学における年代論や文化論に大きな影響を与えました。ただし、この弥生稲作開始論に関しては、中山平次郎や山内清男、鳥居龍蔵といった先行研究者の成果を独自に発展させたものであり、当時から他の研究者によってその点が指摘されていました。

森本は学問の世界だけでなく、多くの人々と交流しました。三宅米吉は彼が上京後の研究を深める上で大きな後ろ盾となりました。また、後の日本の考古学を牽引する藤森栄一、小林行雄、杉原荘介といった研究者たちが彼の薫陶を受けています。藤森栄一は、森本の最晩年の様子を著書『二粒の籾』に書き記しています。

私生活では、1935年に夫人を結核で亡くし、自身もまた同じ病に冒されました。そして、1936年1月22日、神奈川県鎌倉市で、わずか32歳という若さでその短い生涯を閉じました。彼の墓は故郷の奈良県桜井市にある極楽寺に建てられています。

森本六爾が遺した膨大な資料は、彼の情熱的な研究活動の軌跡を物語っています。土器片や写真乾板、研究者や当時の著名人の名刺、研究に関する書簡、さらには家族への手紙類など、多岐にわたる遺品は、現在、奈良県立橿原考古学研究所付属博物館に保管されており、その整理・研究が進められています。

一般にはあまり知られていない存在かもしれませんが、考古学に携わる人々の間では、その異名とともにその業績は高く評価されています。また、推理作家の松本清張の短編小説『断碑』に登場する主人公、木村卓治のモデルになったことでも知られています。

主要な著作

『金鎧山古墳の研究』（雄山閣、1926年）
『石人石馬』（日東書院、1929年）
『飛行機と考古学』（東京考古学会、1931年）
『弥生式土器序集』（東京考古学会、1933年）
『日本農耕文化の起源 考古学上より見たる日本原始農業の研究』（葦牙書房、1941年、没後刊行）
『日本考古学研究』（桑名文星堂、1943年、没後刊行）

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