森秀人

森秀人：多岐にわたる分野で活躍した異才の評論家

森秀人（もり ひでと、1933年4月15日 - 2013年6月15日）は、日本の評論家、編集者、著述家です。本名は秀男。演劇評論家の森秀男とは別人です。彼は、評論活動にとどまらず、編集者や翻訳者としても幅広い分野で活躍しました。

生涯

森秀人は東京出身で、早稲田高等学院を卒業しました。1958年には、三一書房の評論募集に入選し、評論家としてのキャリアをスタートさせます。1959年には、加太こうじ、鶴見俊輔、佐藤忠男、虫明亜呂無、邑井操らと共に大衆芸術研究会を創設し、大衆文化の研究にも取り組みました。

1962年には、松田政男、山口健二、川仁宏らが企画した自立学校で、谷川雁、吉本隆明、埴谷雄高、黒田寛一、栗田勇らと共に講師を務めました。自立学校には、平岡正明、唐十郎、宮原安春、諸富洋治、赤瀬川原平、鈴木忠志など、後の文化シーンを牽引する多くの若者が集まりました。特に、平岡正明と宮原安春は森の弟子として知られています。

1963年7月号から1964年4月号まで、『思想の科学』の編集長を務めました。この時期に、平岡正明と宮原安春が犯罪者同盟の機関誌を単行本化した『赤い風船あるいは牝狼の夜』を刊行し、猥褻図画頒布の容疑で逮捕された際には、森が身元引受人となっています。

月刊『七宝芸術』の編集長を務めた後、評論活動に専念しました。初期には、沖縄自立論を唱え、既成左翼の「祖国復帰」論を厳しく批判する新左翼の論客として知られていました。しかし、晩年には、アイザック・ウォルトンの『釣魚大全』を翻訳した釣り師として、一部で知られる存在となります。考古学、民俗学、釣りに関する著作を多数残しました。

2013年、逝去。

評論活動と著作

森秀人の著作は多岐にわたります。初期には、文学や思想に関する評論活動を行い、社会や文化に対する鋭い批評を展開しました。

『反道徳的文学論』（1959年）：文学における道徳性を問い直す評論。
『アイデアの秘訣 才能を生かす技術』（1962年）：創造的な思考を促すための技術を解説。
『甘蔗伐採期の思想 組織なき前衛たち』（1963年）：社会運動における組織のあり方を考察。
『大衆文化史 日本人の性と生活』（1964年）：日本における大衆文化と性の関わりを考察。
『日本の大衆芸術』（1964年）：日本における大衆芸術の歴史と特徴を解説。
『性的時代』（1965年）：現代社会における性の問題を考察。
『現代の逆臣 宝石に挑戦した男たち』（1966年）：宝石に魅せられた人々の生き様を描く。
『遊民の思想』（1968年）：既存の価値観に囚われない遊民の思想を考察。
『埋もれた銅鐸』（1970年）：考古学的な視点から古代日本の文化を考察。
『沖縄怨歌・崩壊への出発 甘蔗伐採期の思想』（1971年）：沖縄の現状と社会運動を考察。
『いま何を読むか 読書人生論』（1971年）：読書の意義と読書を通しての自己形成を解説。
『乱世の知識人 孤悲と佇立の世界』（1972年）：乱世における知識人の生き方を考察。
『神話の発掘』（1975年）：日本の神話の起源を探る。
『蛆の乞食よ目をさませ 本物の教祖・北村サヨの生涯』（1975年）：宗教家・北村サヨの生涯を描く。

晩年には、釣りの分野にも精通し、以下のような著作を残しました。

『荒野の釣師』（1976年）：釣りを通して人生を語るエッセイ。
『私本釣魚大全』（1979年）：釣りに関する知識や技術をまとめた実践書。
『大黄河を釣る 幻の怪魚を求めて 中国大陸釣行記』（1981年）：中国での釣り体験を記録した紀行文。
『釣りの科学 新しい釣魚学入門』（1981年）：釣りを科学的に分析した入門書。
『釣りの夢魚の夢』（1983年）：釣りを通して自然や人生を語るエッセイ。
『日本縦断男の釣り わが釣魚大全』（1983年）：日本各地での釣り体験をまとめた記録。
『フィッシング・サイエンス ハイ・テク時代の釣魚学』（1985年）：ハイテク技術を取り入れた釣りの科学を解説。
『笑う魚 釣魚大全以後』（1993年）：釣りの世界を深く掘り下げたエッセイ。

また、共編著や翻訳も多数手がけました。特に、アイザック・ウォルトンの『釣魚大全』の翻訳は、釣り愛好家から高く評価されています。

『現代日本の底辺』全4巻（1960年）：日本の社会構造の底辺に生きる人々の姿を描いた社会学的な記録。
『恐るべき労働』全4巻（1961年）：現代社会における労働の実態を多角的に考察した労作。
『ぶっつけ人生論』（1961年）：人生における様々な問題に対して、独自の視点から考察を加えた対談集。
『日本の大衆芸術 : 民衆の涙と笑い』（1962年）：日本における大衆芸術の多様性と歴史をまとめた論集。
『読書啓発 自己革新のための本の活用』（1967年）：読書を通して自己成長を促すための方法を解説。
『ひたすら渓流釣り』（1995年）：渓流釣りの楽しみと技術を解説した実践書。
『集成日本の釣り文学』第8巻（1996年）：日本の釣り文学を集成した資料集。
『釣魚大全』（1970年）：釣りに関する古典的名著の翻訳。

森秀人は、その多岐にわたる活動と著作を通して、日本の文化や社会に大きな影響を与えました。彼の思想や活動は、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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