樋口龍峡

樋口龍峡（ひぐち りゅうきょう）

樋口龍峡は、1875年（明治8年）に長野県で生まれ、1929年（昭和4年）に54歳で亡くなった評論家、社会学者、そして政治家です。本名は樋口秀雄といい、暁雪という別号も用いました。彼は多才な人物で、文芸評論、社会学研究、政治活動と幅広い分野で活躍しました。

生い立ちと学問

樋口龍峡は、銀行家の長男として生まれました。幼少期から優秀で、飯田尋常小学校、旧制松本中学、第一高等学校を経て、東京帝国大学文科大学哲学科に進学し、社会学を専攻しました。大学院にも進み、社会学の研究に深く打ち込みました。

文芸評論家としての活動

樋口は、1901年に高山樗牛の『美的生活を論ず』に対して、「美的生活論を読んで樗牛子に与ふ」という論文で反論しました。この論文は、道徳主義と悟性主義の立場から、当時の文芸思潮であった自然主義を批判するものでした。この活動がきっかけとなり、1909年には後藤宙外、登張竹風、笹川臨風らと共に文芸革新会を結成し、反自然主義運動を主導しました。この運動は、当時の文壇に大きな影響を与えました。

教育者としての活動

1904年頃から、樋口は明治大学で教鞭を執り始めました。また、学内の清国留学生向けの教育機関である経緯学堂の主事も務め、教育者としても貢献しました。

政治家としての活動

1911年、大隈重信が創刊した雑誌『新日本』の編集に永井柳太郎と共に携わった頃から、樋口は政治への関心を深めていきました。1914年には文学博士の候補者となりましたが、政治的な対立から落選。これを機に、政治の世界に進むことを決意しました。1915年には立憲同志会の推薦を受け、第12回[[衆議院議員総選挙]]で初当選を果たしました。その後、政党の合同に伴い、憲政会、立憲民政党と党籍を移しました。

政党離脱と晩年

1928年、樋口は立憲民政党を離党し、田中善立らと憲政一新会を発足させました。この行動が原因で、民政党を除名されました。その後、同じく長野県選出の民政党議員であった百瀬渡や降旗元太郎らが樋口の復党運動を行いましたが、樋口は復党することなく、1929年6月6日に心臓麻痺で急逝しました。

著作

樋口龍峡は、評論、社会学、文学など、多岐にわたる分野で多くの著作を残しました。

単著
『碧潮』（1906年）
『社会心理の研究』（1908年）
『時代と文芸』（1909年）
『社会論叢』（1909年）
『社会学小史』（1911年）
『社会学十回講義』（1912年）
『群衆論』（1913年）
『現代思潮論』（1913年）
『近代社会学講話』（1915年）
『新世界の印象』（1922年）
『欧米うらおもて』（1922年）

編著
『千波万波』（1909年）
『寄る波』（1909年）
『自ら進んで取れ』（1910年）
『新体美文資料』（1914年）
『新体書翰文』（1914年）
『新体女子書翰文』（1915年）
『新体実業書翰文』（1915年）
『新体学生文範』（1915年）
『舌と筆 雄弁美辞』（1916年）
『雲か波か 文豪傑作』（1918年）

翻訳
エンリコ・フェリ『社会政策と近世科学』（1909年）
* ヒューゴ・ミュンステルベルヒ『済生の本義』（1913年）


樋口龍峡は、文芸評論家として自然主義を批判し、社会学者として社会現象を深く考察し、政治家として社会の変革を目指した、多才な人物でした。その著作は、現代においても貴重な文献として評価されています。

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