権徹

権 徹（ゴン・チョル、朝: 권 철、英: Kwon Choul）は、1967年に大韓民国の慶尚北道で生まれた写真家です。社会の様々な事象を独自の視点で捉える報道写真家として知られています。

韓国で大学を卒業した後、写真表現の道を志し、1994年に日本へ渡りました。日本写真芸術専門学校に入学し、報道写真家の樋口健二氏に師事。写真家としての基礎と、社会の深部を見つめる姿勢を学びました。

プロとしてのキャリアは、1999年にハンセン病回復者を扱った写真記事で雑誌に作品を発表したことから始まります。以来、彼のカメラは多岐にわたる被写体を追ってきました。東京都の歌舞伎町、北朝鮮からの脱北者、日本と韓国における元ハンセン病患者、原子力発電所、在日コリアン、米軍基地、そして社会現象となった韓流ブームまで、その取材対象は広範に及びます。これらの活動を通じて、『DAYS JAPAN』、『フライデー』、『FLASH』といった有力雑誌に多くの記事を寄稿する一方、テレビドキュメンタリー番組にも出演するなど、メディアの枠を超えて影響力のある活動を展開しました。

また、歴史的な出来事にも数多く立ち会っています。2008年の中国・四川大地震の被災地、そして2011年3月に発生した東日本大震災では、甚大な被害を受けた東北の沿岸部や、深刻な事故を起こした福島第一原子力発電所周辺を取材。災害の現場で人間の営みや社会の課題を記録し続けました。

特に、新宿・歌舞伎町の撮影は、氏のライフワークの一つとなりました。日本写真芸術専門学校在学中、学校が歌舞伎町に近かったことから、自然とこの街を撮り始め、それが10年以上にわたる継続的なテーマへと発展しました。歌舞伎町の暴力や公衆の面前での乱行、警察の不当な対応、事件や事故の現場といった衝撃的な光景から、そこに暮らす人々の穏やかな日常まで、街の持つ多様な側面を丹念に記録。その長期にわたる精力的な撮影活動から、「歌舞伎町スナイパーカメラマン」という異名で呼ばれることもありました。

日本での活動に一つの区切りをつけ、2014年に韓国へ帰国。帰郷後は、済州島での取材活動を経て、現在はソウル特別市を拠点に写真家としての活動を続けています。

代表的な作品集には、歌舞伎町の幼いホームレスをテーマにした『歌舞伎町のこころちゃん』などがあります。2013年に刊行された写真集『歌舞伎町』は、その卓越した表現が評価され、第44回講談社出版文化賞「写真賞」を受賞しました。また、同年、ハンセン病回復者の詩人・桜井哲夫氏を題材に出版された『てっちゃん ハンセン病に感謝した詩人』は、翌2014年に東京都のブックフェアで「今、読むべき30冊」の一つに選出されています。

彼の作品は、社会の光と影、人間の強さと弱さ、そして歴史の証言を写し出すことで、観る者に深い問いを投げかけています。

作品集

『歌舞伎町のこころちゃん』（講談社、2008年）
『歌舞伎町』（扶桑社、2013年）
『てっちゃん ハンセン病に感謝した詩人』（彩流社、2013年）
『歌舞伎町スナイパー 韓国人カメラマンの18年戦記』（宝島社、2014年、撮影手記）

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