橘則光

橘則光

橘則光（たちばな の のりみつ）は、平安時代中期に活躍した貴族です。橘氏長者・中宮亮を務めた橘敏政を父に持ち、母は花山天皇の乳母でした。彼は清少納言の夫としても広く知られています。

経歴

則光は花山天皇の乳母子の一人として、天皇に近侍していました。しかし、寛和2年（986年）の寛和の変により花山天皇が退位・出家したため、その後の則光のキャリアにも影響があったと考えられます。一条朝に入ると、長徳元年（995年）に六位蔵人に任ぜられ、官僚としての道を歩み始めます。蔵人としての職務の傍ら、修理亮や左衛門尉（検非違使尉）も兼任し、多岐にわたる職務をこなしました。

長徳4年（998年）には従五位下に叙爵され、貴族としての地位を確立します。長保3年（1001年）には花山院臨時御給により従五位上に昇叙。その後、寛弘3年（1006年）には土佐守に任ぜられ、寛仁年間（1017年 - 1021年）には陸奥守を務めるなど、受領として地方官を歴任しました。地方政治に携わる一方で、藤原斉信の家司も務め、中央政界との繋がりも維持していました。

人物像

則光は、盗賊を自ら取り押さえる（あるいは斬り殺した）という逸話が残されており、武勇に優れ、胆力のある人物として知られています。『江談抄』『今昔物語集』『宇治拾遺物語』といった説話集にもその武勇伝が収録されています。

しかし、興味深いことに、妻である清少納言の作『枕草子』においては、やや気弱な人物として描かれています。このギャップが、則光の人物像をより多面的にしていると言えるでしょう。

歌人としての側面も持ち合わせており、『金葉和歌集』と『続詞花和歌集』にはそれぞれ一首ずつが採録されています。また、『後拾遺和歌集』にもその名を見ることができます。しかし、『枕草子』の中では、和歌を詠むことを嫌い、そのような素振りを見せたら絶交するとまで述べており、風流を好まない一面も描かれています。文学的才能に秀でた清少納言とは対照的な態度であり、夫婦間の興味深い関係性を垣間見ることができます。

官歴

長徳元年（995年） 正月11日：六位蔵人
長徳2年（996年） 正月25日：兼修理亮
長徳3年（997年） 正月：左衛門尉、検非違使宣旨
長徳4年（998年） 正月7日：従五位下
長保3年（1001年） 正月29日：従五位上（花山院臨時御給）。日付不詳：遠江権守
長保4年（1002年） 3月5日：見遠江介
寛弘3年（1006年） 日付不詳：土佐守
寛弘8年（1011年） 12月17日：前土佐守
寛仁3年（1019年） 7月25日：見陸奥守
万寿5年（1028年） 9月6日：前陸奥守

系譜

父：橘敏政
母：右近尼 - 花山院乳母
妻：清少納言 - 清原元輔の娘
男子：橘則長（982年 - 1034年）
妻：光朝法師母 - 橘行平の娘
男子：橘季通
男子：光朝
生母不明の子女
男子：橘好任
女子：藤原範基室

橘則光は、武人としての勇敢さと、文化人としての妻との対比が際立つ、興味深い人物です。彼の生涯は、平安時代の貴族社会の一側面を垣間見せてくれます。

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