機殿神社

神服織機殿神社と神麻続機殿神社：伊勢神宮の神御衣を織り続ける社々

三重県松阪市には、神服織機殿神社と神麻続機殿神社という、歴史深く神秘的な二つの神社があります。この二社は、伊勢神宮（皇大神宮）の所管社であり、古来より神御衣祭に奉納される御衣（神様の衣）を織るという、非常に重要な役割を担ってきました。

それぞれの位置と呼称

両神社は、櫛田川下流右岸に位置し、元々は同じ場所に鎮座していましたが、現在はそれぞれ大垣内町と井口中町に分かれています。地元では、神服織機殿神社を下機殿（しもはたでん）または下館（しもだち）、神麻続機殿神社を上機殿（かみはたでん）または上館（かみだち）と呼んでおり、神御衣祭における位置関係から、神服織を右門、神麻績を左門と呼ぶこともあります。

それぞれの境内に、本殿よりも大きい機殿（はたどの、機織をする作業場）があり、これは八尋殿（やひろどの）と呼ばれています。この八尋殿こそ、神御衣の奉織が行われる中心的な場所です。

伊勢神宮との深い繋がり

伊勢神宮の摂末社として管理される両機殿は、古代の儀式帳には記載されていませんが、神事に重要な神社として、明治以降も神事を行なうために神社として位置づけられました。両機殿は、神御衣祭に供える絹布（和妙）と麻布（荒妙）の御衣を調進する御料地（ごりょうち）だったためです。しかし、明治以前は、奉織作業を行う八尋殿が中心であり、神社は従属的な存在でした。

奉織と御糸

御衣を織る作業は奉織（ほうしょく）、使用する糸は御糸（みいと）と呼ばれ、かつては奉織工を「人面（にんめん）」と呼んでいましたが、現在は「織子（おりこ）」と呼びます。両機殿は、斎宮以西、神堺西端にあたる櫛田川分流の祓川（はらいがわ）左岸という特異的な位置にありますが、これは古くからこの地域が紡績業が盛んだったことに由来すると言われています。櫛田川流域は、古代から麻績（おみ）が地名として残り、江戸時代には上流で生産された木綿糸が伊勢商人の主力商品でした。現在も、両機殿の東、多気郡明和町斎宮の北には「御糸」という地名が残っています。

歴史の変遷

『倭姫命世記』には、垂仁天皇の時代、倭姫命が天照大神を祀った際に建てられた神服部社が、後の麻績機殿神服社であると記されています。また、天智天皇7年（668年）には火災で焼失し、その後再建されたという記述もあります。しかし、『倭姫命世記』は鎌倉時代の伝承であり、史実とは必ずしも一致しません。『神祇令』『延喜式』『皇太神宮儀式帳』には神御衣祭が記されており、平安時代初頭には御衣の奉織が行われていたことは確実です。

室町時代には、北畠家の勢力拡大により、両機殿は衰退し、奉織と祭祀は中断されました。神御衣祭は宝徳3年(1451年）を最後に中断された記録が残っています。織田信長の活躍後、伊勢神宮への参拝客が増加すると、両機殿にも参拝客が増え、社殿などが造営されるようになりました。江戸時代には神御衣祭が再興され、明治7年（1874年）には神宮の神職が参行するようになり、奉織が再興されたのは大正3年（1914年）5月です。

御衣奉織行事

毎年5月と10月の初旬、両機殿の八尋殿で、皇太神宮正宮と別宮の荒祭宮での神御衣祭に供える御衣が奉織されます。地元では「おんぞさん」と呼ばれ、戦国時代には中断していましたが、大正3年5月より、愛知県木曽川町の職人の協力を得て再興されました。現在は、地元住民が和妙と荒妙の一部を奉織し、残りは木曽川町と奈良市月ヶ瀬の専門業者に委託しています。1975年（昭和50年）、松阪市は和妙と荒妙の奉織を「御衣奉織行事」として無形民俗文化財に指定しました。

祭祀

両機殿では、奉織を始める前に祈る神御衣奉織始祭（かんみそほうしょくはじめさい）と、奉織が終わったことに感謝する神御衣奉織鎮謝祭（かんみそほうしょくちんしゃさい）が行われます。神御衣奉織鎮謝祭の後、御衣は内宮へ運ばれます。

各神社の詳細

神服織機殿神社

祭神は、近年は神服織機殿鎮守神とされることが多いですが、服部の祖先である天御桙命（あめのみほこのみこと）と天八千々姫（あめのやちぢひめ）とする伝承もあります。和妙は、境内の八尋殿で女性の織子によって奉織されます。

神麻続機殿神社

祭神は、近年は神麻続機殿鎮守神とされることが多いですが、麻績部の祖先である天八坂彦命（あめのやさかひこのみこと）とする伝承があります。荒妙は、境内の八尋殿で男性の織子によって奉織されます。

境内社と社殿

両機殿には、それぞれ境内に御前の神を祀る祠が複数あります。本殿は内宮に準じた神明造で、八尋殿は本殿よりも大きく、8本の鰹木を持つ茅葺屋根です。本殿と八尋殿は板垣で囲われ、斎館も設けられています。

交通アクセス

最寄駅は近鉄山田線漕代駅です。駅からバスやタクシーを利用してアクセスできます。

まとめ

神服織機殿神社と神麻続機殿神社は、伊勢神宮と深く繋がり、歴史と伝統を受け継ぐ貴重な神社です。神御衣祭に奉納される御衣の奉織という神聖な役割を担い、現在もその伝統は大切に守られ続けています。訪れる際には、その歴史と神秘的な雰囲気を感じてみてください。

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