歌川国丸

歌川国丸：江戸中期を彩った浮世絵師

歌川国丸（うたがわ くにまる、1793年-1829年）は、江戸時代中期に活躍した実力派の浮世絵師です。本姓は前田、通称を文治といい、伊勢屋伊八という名も用いていました。歌川豊国の門下として研鑽を積み、一円斎、五彩楼、軽雲亭、彩霞楼、翻蝶庵といった数々の雅号で作品を発表しました。

国丸の出自は、江戸の本町二丁目で質屋を営む家庭でした。師である歌川豊国、そして田川鳳朗に師事したことは知られていますが、それ以外の詳細な経歴は不明な点が多く残されています。しかしながら、『無名翁随筆』には、国丸が風流な生活を送り、多くの名家と交流を持ち、俳諧を嗜み、俳名竜尾を称していたことが記されています。

国丸の作画活動は、文化から文政の頃（1809年から1829年頃）に集中しており、数々の合巻の挿絵を手掛けました。中でも、文化6年（1809年）に刊行された益亭三友作『花鳥風月仇討話』は、国丸の初期の代表作として知られています。その後も、『吾嬬育露之荒事』（1812年）、『昔今猿人真似』（1815年）、『亀がせ物語』（1815年）、『劇場仕入楓釣枝』（1824年）、『敵討忍笠時代蒔絵』（1828年）、『侠容誧安売』（1829年）、『山洞流悪玉狂言』（1821年）など、多くの合巻挿絵作品を世に送り出しました。また、噺本である十返舎一九作『落咄機嫌上戸』（1817年）の挿絵も手掛けています。晩年には、為永春水作『敵討湊の曙』（1831年）の挿絵を柳川重信とともに制作していることから、国丸の活躍は晩年まで続いたことがうかがえます。

国丸は合巻挿絵以外にも、浮絵や美人画なども制作していましたが、特に大きな評価を得た作品は少ないとされています。しかし、歌川豊国の門下生の中では、歌川国安、歌川国直とともに「三羽烏」と呼ばれるほど高い画技を持っていたと評されています。これは、国丸の技術と才能の高さを示す、重要な証左といえるでしょう。

国丸の作品は、版本挿絵だけでなく、錦絵や肉筆画にも及びます。ボストン美術館には、「浮絵江戸浅草観音之図」、「新版浮絵江戸東叡山花見之図」、「い勢古市　牛車楼」、「風流六玉川　岡本屋内重岡」といった錦絵が所蔵されており、国丸の多様な画風を垣間見ることができます。また、東京国立博物館には「ほととぎすを聞く遊女図」という肉筆画が、たばこと塩の博物館には「老人の図」「酒蔵図」といった肉筆画が収蔵され、彼の繊細な筆致と表現力を伝える貴重な資料となっています。

享年37歳でその生涯を終えた歌川国丸。多くの作品を残してはいないものの、その才能は高く評価され、江戸時代の浮世絵史に名を残す重要な画家の一人と言えるでしょう。浅草新堀端厳念寺に眠る国丸の墓は、彼の短いながらも華麗な画業を物語る、静かな証人となっています。

参考文献

渓斎英泉編　『無名翁随筆』〈『燕石十種』第三巻〉　中央公論社、1979年
日本浮世絵協会編　『原色浮世絵大百科事典』（第2巻）　大修館書店、1982年
* 『風俗画と肉筆浮世絵　たばこと塩の博物館所蔵肉筆絵画撰』　たばこと塩の博物館、2007年

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