正木千冬

正木千冬：激動の時代を生きた経済学者・鎌倉市長

正木千冬（まさき ちふゆ）は、明治から昭和にかけて、経済学者、官僚、ジャーナリスト、そして政治家として多彩な足跡を残しました。特に、神奈川県鎌倉市長を3期務めたことで知られています。

生い立ちと社会主義への傾倒

1903年、東京美術学校（現：東京芸術大学）校長である正木直彦の長男として東京に生まれた正木千冬は、東京府立第四中学校、第一高等学校を経て東京帝国大学経済学部を卒業しました。中学時代にロシア革命の衝撃を受け、社会主義に目覚めます。大学在学中はマルクス経済学を学び、東大新人会のセツルメント活動に没頭しました。指導教員は土方成美であり、後に親交を深める大内兵衛とは異なる派閥に属していました。

ジャーナリスト、そして投獄

大学卒業後、岡實の紹介で大阪毎日新聞社に入社。「エコノミスト」編集部に配属され、経済記者としてのキャリアをスタートさせます。大阪産労で知り合った木下半治（フランス文学者）から、夫人の妹である大原春江（高田屋嘉兵衛四代目の娘）を紹介され結婚しました。

しかし、大阪産労での活動が災いし、野坂参三との交流や、共産党員への便宜供与が発覚。四・一六事件に関連して複数回投獄されることになります。もっとも、父・正木直彦の存在や、連載していた「戦争経済学」が好評だったことから、新聞社の籍は剥奪されたものの、嘱託として給料は支給されていました。

企画院事件と獄中生活

1935年、高校時代からの知人であった迫水久常の勧めで企画院に移り、生産力拡充委員会幹事として活動。しかし、1941年に企画院事件で逮捕されます。時の法務大臣が親戚であったことや、検察官が同窓生だったこともあり、獄中では読書にふける日々を送りました。同時期には尾崎秀実や宮本顕治も収監されており、宮本とは入浴中に会話するハプニングもありました。宮本とは後に鎌倉市長選挙で再会することになります。

第二次世界大戦後

1944年に出所後、日本曹達株式会社で統計課長に就任。戦後は稲葉秀三の国民経済研究協会で常務理事を務め、1946年には和田博雄の推薦で経済安定本部で統計分析に従事しました。その後、商工省統計調査局長、内閣統計委員会常任委員、参議院予算委員会専門委員、内閣統計局次長、國學院大學教授を歴任しました。

鎌倉市長として

1970年、鎌倉市長選挙に立候補し初当選。革新自治体の一つとして、革新市長会に所属しました。2期8年、鎌倉市政に尽力します。3期目を目指した選挙では、社会党と共産党の連携解消が原因で落選。また、神奈川県下の革新自治体を仕切っていた横浜市長・飛鳥田一雄の社会党委員長転身に反対したことも影響しました。

著書

正木千冬は、著書を通じて自身の思想や政策を積極的に発信しました。

『日本経済の新課題―重要産業を中心として』
『ずいひつ鎌倉市長』

まとめ

正木千冬は、激動の時代を様々な立場で生きた人物でした。社会主義への傾倒、投獄、戦後の復興、そして鎌倉市長としての実績。彼の生涯は、日本の近現代史を映し出す鏡と言えるでしょう。

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