武霊王

武霊王：趙を軍事大国に変えた改革者、その光と影

武霊王（ぶれいおう）は、中国戦国時代の趙の第6代君主（在位：紀元前325年 - 紀元前298年）であり、趙の初代王です。姓は嬴、氏は趙、諱は雍。彼は胡服騎射という革新的な軍事改革を断行し、趙を強国へと変貌させました。

生涯

紀元前326年、父である粛侯の死後、王位を継承。当初は幼かったため、肥義ら重臣の補佐を受けました。紀元前318年には、楚・韓・魏・燕と共に秦を攻めますが、函谷関で敗北。諸国が王号を称する中、武霊王は敗戦を省みて、自国に王を名乗る実質がないとして、あえて「君」と呼ばれることを選びました（後に子の恵文王の代に再び王号を使用）。

紀元前315年、隣国燕の内乱に乗じ、公子職を擁立しようとしましたが、燕では昭王が即位し失敗に終わります。紀元前311年、呉広の献上した美女、孟姚を寵愛し、後の恵文王となる公子何が生まれます。紀元前310年、郊外から中山や斉を眺め、これらの国を征服する野望を抱きました。

胡服騎射の導入

武霊王の最大の功績は、紀元前307年に導入した胡服騎射です。当時の戦術は戦車戦が主流でしたが、北方遊牧民族の騎馬戦術に着目し、自国軍に取り入れようとしました。しかし、伝統を重んじる貴族たちは猛反発。特に叔父の公子成は強く反対しましたが、武霊王は「舜は有苗に舞い、禹は裸国に袒ぐ」という故事を引用し、異文化を受け入れる柔軟性こそが重要だと説得しました。その結果、遊牧民の服装である胡服の着用と、騎馬弓射の訓練が趙軍に導入され、軍事力が飛躍的に向上しました。

同年、秦の武王が死去したため、燕にいた公子稷を送り込み、昭襄王として即位させました。

紀元前298年、武霊王は太子であった公子章を廃し、孟姚が生んだ公子何（後の恵文王）を太子に立て王位を譲ります。しかし、退位後も「主父」と名乗り、実質的な権力を保持し続けました。

恵文王3年（紀元前296年）、長年の懸案であった中山国を完全に滅ぼし、領土を拡大しました。

悲劇的な最期

恵文王4年（紀元前295年）、武霊王は廃太子となった公子章を憐れみ、代の君として封じようとしました。これが公子章に反乱を決意させます。反乱は失敗に終わり、公子章は武霊王の元へ逃げ込みますが、恵文王側の李兌と公子成によって武霊王の館は包囲されます。公子章は殺害され、武霊王自身も館に閉じ込められ、3ヶ月に及ぶ包囲の末に餓死するという悲劇的な最期を遂げました。

評価

司馬遷は、武霊王の晩年について「後継を逡巡し、餓死したことで天下の物笑いとなった（為天下笑、豈不痛乎）」と厳しく評価しています。

武霊王を題材にした小説

桐谷正『武霊王』（祥伝社、2003年）
安西篤子「胡服の王」（『洛陽の姉妹』所収、講談社、1999年）

外部リンク

* 『武霊王』 - コトバンク

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