段元妃

段元妃（だん げんひ）

段元妃（生年不詳 - 396年）は、後燕の成武帝慕容垂の皇后であり、その生涯は後燕の盛衰を映し出す鏡のような存在でした。彼女は、成昭皇后（慕容垂の最初の妻）の姪という高貴な血筋を持ち、その美貌と聡明さで慕容垂の寵愛を受けました。

生涯

右光禄大夫であった父、段儀のもとに生まれた元妃は、幼い頃から非凡な才能を発揮しました。姉妹である段季妃との会話から、彼女の並外れた志の高さがうかがえます。元妃は「私は凡人の妻にはならない」と言い放ち、妹もまた「私も庸人の妻にはならない」と応じたという逸話は、彼女たちの自尊心の高さを示すものでしょう。

384年、20代の頃、元妃は当時59歳であった慕容垂に嫁ぎ、正室の座につきました。彼女は慕容垂との間に二人の男子をもうけ、その寵愛を一身に受けました。386年に慕容垂が皇帝を自称すると、元妃は夫人となり、388年には皇后に立てられました。

しかし、元妃の政治への関与は、後燕の朝廷に波紋を広げました。彼女は、慕容垂に対し、太子であった慕容宝（成昭皇后の子）が優柔不断であるとして、廃太子を進言しました。代わりに、遼西王慕容農や高陽王慕容隆を太子に立てるよう強く主張し、趙王慕容麟の排斥も訴えました。これに対し、慕容垂は激怒し、「私を晋の献公だと思っているのか」と元妃を叱責したと伝えられています。元妃は妹である段季妃に「范陽王（段季妃の夫で南燕を建てた慕容徳）は並外れた器量を持っている。もし燕の命脈が尽きていなければ、彼は皇帝になっていただろう」と語ったとされています。

元妃の進言は、慕容宝や慕容麟をはじめとする多くの人々の恨みを買うことになりました。396年に慕容垂が崩御し、慕容宝が後を継ぐと、元妃の運命は暗転します。慕容宝は慕容麟を遣わし、元妃に自害を命じました。元妃は死を前にしても毅然とした態度を崩さず、「母をたやすく殺すお前たちに、国を守ることができようか。私は死を惜しまないが、間もなく国が滅びるのを心配する」と言い放ち、自ら命を絶ちました。

慕容宝は元妃の死に激怒し、彼女を追廃しようとしましたが、中書令の眭邃が「息子には母を廃除する権限はない」と諌めたため、追廃は免れました。元妃には「哀」の諡号が贈られ、夫の諡と合わせて成哀皇后と称されました。

子

慕容朗（勃海王）
慕容鑒（博陵王）

伝記資料

『晋書』載記
『十六国春秋』
* 『資治通鑑』

段元妃の生涯は、美貌と聡明さを持った女性が、政治の世界で翻弄され、悲劇的な結末を迎える物語として、後世に語り継がれています。彼女の存在は、後燕という王朝の光と影を象徴していると言えるでしょう。

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