殺意の風景

殺意の風景

『殺意の風景』は、紀行作家として名高い宮脇俊三が1985年に発表した異色の推理小説集です。新潮社から刊行され、後に新潮文庫、光文社文庫からも再版されています。

作品概要

この作品は宮脇俊三にとって初の小説であり、唯一の推理小説としても知られています。各短編は、鉄道という要素を巧みに取り入れたトリックが特徴的な連作形式となっています。

特筆すべきは、殺人事件そのものが起こらないという点です。物語は常に、殺人が発生する直前、または登場人物の強い殺意が露わになった瞬間に幕を閉じます。読者は、事件の顛末ではなく、殺意が生まれる瞬間や、その背後にある人間ドラマに焦点を当てることになります。

全18話から構成されており、各話の舞台は日本全国各地に点在し、その土地ならではの特色が活かされています。紀行作家としての宮脇俊三の知識と経験が、作品に深みとリアリティを与えています。

受賞と映像化

『殺意の風景』は、第13回泉鏡花文学賞を受賞。また、1985年上半期の直木賞候補にも選ばれるなど、高い評価を受けました。

一部の作品は映像化もされており、第12話「石油コンビナートの巻」は、火曜サスペンス劇場「弁護士・高林鮎子 寝台特急あさかぜ4号殺人風景」として、第14話「砂丘の巻」は、テレビ東京系月曜女のサスペンス傑作推理受賞作シリーズ「殺意の風景・砂色の迷宮」として、それぞれドラマ化されています。

各話タイトルと舞台

樹海の巻［青木ケ原］
潮汐の巻［鬼ケ城］
湿原の巻［シラルト沼］
カルスト台地の巻［平尾台］
段々畑の巻［御三戸］
溶結凝灰岩の巻［高千穂峡］
火砕流の巻［北軽井沢］
舌生層の巻［奥大井川］
トレッスル橋の巻［余部］
豪雪地帯の巻［松之山温泉］
隆起海岸の巻［鵜ノ巣断崖］
石油コンビナートの巻［徳山］
硬玉産地の巻［姫川］
砂丘の巻［鹿島灘］
廃駅の巻［日和佐］
海蝕崖の巻［摩天崖］
噴火口の巻［十勝岳］
海の見える家の巻［須磨］

書誌情報

新潮社 1985年4月 ISBN 4-10-333504-1
新潮文庫 1988年4月 ISBN 4-10-126806-1
* 光文社文庫 2006年5月 ISBN 4-334-74063-4

宮脇俊三の紀行作家としての視点と、ミステリー作家としての才能が融合した『殺意の風景』は、一味違った推理小説を求める読者におすすめの作品です。

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