毒草 (小説)

菊池幽芳の小説『毒草』とその映画化

『毒草』は、菊池幽芳によって1916年（大正5年）に発表された小説であり、初期の日本映画界において、その人気から複数回にわたり映画化された作品です。特に1917年（大正6年）には、小林商会、天活、日活向島の3社が競作という形でそれぞれ映画を製作・公開し、大きな話題となりました。

小説『毒草』について

小説『毒草』は、『大阪毎日新聞』と『東京日日新聞』で1916年に連載されました。その後、至誠堂書店から全3巻として書籍化されています。菊池幽芳は、『己が罪』や『乳姉妹』といった作品でも知られ、当時の「家庭小説」というジャンルを確立した作家として評価されています。

1917年の3社競作

1917年には、小林商会、天然色活動写真（天活）、日活向島撮影所がそれぞれ『毒草』を映画化し、同年3月11日に同日公開されました。浅草公園六区では、それぞれの映画館で各社の『毒草』が上映されるという状況になり、観客は同じ日に複数の『毒草』を鑑賞することができました。

小林商会版：井上正夫が監督を務め、自らもお源役で主演。栗島狭衣も出演しています。特筆すべきは、後の松竹蒲田撮影所の女優・葛城文子が映画女優として初期の出演を果たしている点です。
天活版：川口吉太郎（後の川口呑舟）が監督を務めました。村田正雄がお源役、東猛夫がお仙役を演じています。
日活向島版：小口忠が監督を務め、立花貞二郎がお品役、五月操がお源役を演じました。

その後の映画化

1931年（昭和6年）には新興キネマが曽根純三監督により、1937年（昭和12年）には大都映画が吉村操監督によりリメイク版を製作・公開しました。しかし、いずれもサイレント映画として製作されたため、トーキーの時代に入ってからの映画化作品はありません。

各映画作品の詳細

以下に、各映画作品のスタッフ、キャスト、公開日などの詳細をまとめます。

1917年 小林商会版

監督：井上正夫
脚本：栗島狭衣
キャスト：井上正夫、木下吉之助、栗島狭衣、葛城文子
公開日：1917年3月11日

1917年 天活版

監督・脚本：川口吉太郎
キャスト：村田正雄、東猛夫、村田高一
公開日：1917年3月11日

1917年 日活向島版

監督：小口忠
脚本：桝本清
キャスト：立花貞二郎、五月操、大村正雄
公開日：1917年3月11日

1931年 新興キネマ版

監督：曽根純三
脚本：山内英三
キャスト：津村宏、森静子、徳川良子
公開日：1931年10月15日

1937年 大都映画版

監督：吉村操
脚本：伊知地大輔
キャスト：琴糸路、橘喜久子、水島道太郎
公開日：1937年2月18日

小説の入手について

小説『毒草』は、2009年11月現在、1997年版（1924年版全集の復刻）を除き、すべて絶版となっています。国立国会図書館のデジタルコレクションでは、当時の書籍を閲覧可能です。

映画『毒草』は、いずれのバージョンも東京国立近代美術館フィルムセンターには所蔵されていません。

外部リンク

国立国会図書館デジタルコレクション：小説『毒草』各巻
日本映画情報システム、日本映画データベース：各映画作品の詳細情報

もう一度検索