毛士龍

毛士龍の生涯：明末の官僚、その激動と波乱

毛士龍（もう しりょう、生没年不詳）は、明末の官僚であり、字を伯高、号を禹門と称しました。常州府宜興県を本貫とします。

立身と初期の活躍

1613年（万暦41年）に進士に及第し、その才能を認められて官界入りを果たしました。当初は杭州府推官として地方行政に携わります。1620年（泰昌元年）、天啓帝が即位すると、その公正さと手腕が認められ、刑科給事中に抜擢されます。この時、姚宗文の不正を弾劾し、その厳格な姿勢を示しました。また、楊漣が官を去る際には、その留任を求める上疏を行い、正義感の強い人物として知られるようになりました。

1621年（天啓元年）には、明朝を揺るがした三大疑惑事件、梃撃の案、紅丸の案、移宮の案について上疏し、その真相解明を求めました。この上疏で、孫慎行、陸夢龍、陸大受、何士晋、馬徳灃、王之寀、楊漣らの功績を称え、一方、魏濬らが正直な人物を害したと厳しく批判しました。天啓帝はこの訴えを受け入れ、一定の評価を与えました。

権力との対立と失脚

しかし、毛士龍の正義感は、次第に権力者との対立を招きます。李選侍の移宮事件を巡り、宦官の劉朝、田詔、劉進忠らが宮中の財産を盗んだ罪で刑に処されることになった際、刑部尚書の黄克纘が彼らを弁護しました。これに対し、毛士龍は黄克纘が法を曲げていると批判し、さらに劉朝らの罪状を詳細に列挙しました。この行動は、宦官の魏進忠の恨みを買い、毛士龍は政治的な圧力を受けることになります。

魏進忠は、陳天爵が李永芳と通じているという誣告を行い、その一族を逮捕しました。毛士龍はこれを弾劾し、錦衣の駱思恭や誣告者の罪を追及しました。魏進忠は、懿安張皇后に権力を掣肘されていることに不満を抱き、死刑囚の孫二を出所させたという虚偽の情報を流しました。毛士龍はこれを逆徒の所業として糾弾したため、魏進忠の憎悪はさらに増大しました。

1624年（天啓4年）には、邵輔忠の不正蓄財を弾劾しましたが、邵輔忠は毛士龍が過去に不正を行ったと逆に訴えました。魏進忠はこれに便乗し、毛士龍は官籍を削られ、邵輔忠は蟄居となりました。その後、魏進忠は魏忠賢と改名し、政権を掌握しましたが、毛士龍への恨みは消えることがありませんでした。1625年（天啓5年）、毛士龍は汪文言の獄に連座し、李三才から賄賂を受け取ったという濡れ衣を着せられ、一兵卒として平陽衛に左遷されます。1626年（天啓6年）には、御史の劉徽が過去の邵輔忠の件を持ち出し、毛士龍をさらに追い詰めようとしました。毛士龍は魏忠賢に命を狙われていることを悟り、夜中に城壁を越えて逃亡しました。

復帰と晩年

しかし、毛士龍の苦難はこれで終わりませんでした。崇禎帝が即位し、魏忠賢が処刑されると、朝廷は毛士龍の冤罪を認め、その罪を全て赦免しました。毛士龍は崇禎帝に感謝の意を示し、その赦免に報いるべく、再び官界に復帰することを望みました。

1641年（崇禎14年）、同郷の周延儒が入閣すると、毛士龍は漕儲副使に任命され、江南諸州の食糧監督にあたります。1642年（崇禎15年）には、太僕寺少卿に昇進し、1643年（崇禎16年）には左僉都御史に抜擢され、都察院の事務を管掌しました。しかし、福建巡按の李嗣京を弾劾した後、病のため辞職し、故郷に戻ります。

その後、明は滅亡し、毛士龍もその中で生涯を終えました。毛士龍は、その生涯を通じて、不正と戦い、正義を貫こうとした人物でした。官僚としての激動の人生は、明末の混乱期を生き抜いた一人の人物の姿を鮮やかに伝えています。

参考文献

* 『明史』巻246 列伝第134

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